<X取締役の退任>
またDKホールディングスの営業系役員は、主にオーナーのつなぎとめに従事していたが、なかには社員がオーナーとの管理契約継続のために必死で取り組んでいたのにも係らず、これを支援せず他人事のような態度の役員もいた。もともと民事再生前から「役員間のチームワークが感じられない」という批判があったのに加え、民事再生申立の夜の敵前逃亡事件で統帥が崩壊しているところに上記のような疲弊感も重なり、営業現場には重苦しさが漂っていた。このようなこともあり営業系の役員に対しては、牧田取締役はマネジメント部長、稲庭取締役は営業部長としてライン長の立場を委嘱していたが、その他の役員には不動産の処分やオーナーとの契約更改など、もっばら民事再生に関する特命を与えるやり方をとっていた。しかし、それでも職務への忠実義務を欠く役員の問題が表面化した。
ある日、黒田会長より内線があった。会長室に行ってみると開口一番
「もう、X取締役には退任してもらうよりほかない」
私は
「何かありましたか?」
と会長に尋ねた。
「社員の気持ちがX取締役からまったく離れてしまっている。せっかく社員がオーナーに当社にとどまってもらおうとして必死の思いで頑張っているのに、それを支援しないばかりか足を引っ張っている」
私は、裏づけをとっておこうと思い、何人かの社員にヒアリングをしてみた。その結果、会長が指摘したとおり、X取締役がオーナーに対する管理継続のために努力している様子はない、とのことであった。また他の営業系役員の顧客の多くが、当社での管理継続を決めていたが、X取締役の顧客の管理物件は既に10数棟が他の管理会社に移されているとのことであった。その管理会社のWEBを見ると、もともと当社で開発しX取締役が懇意顧客に売却した物件の写真が「弊社の管理物件紹介」として並んでおり、社員らの指摘する事実を確認できた。
私は悔しくてたまらなかった。
仮に当社が精一杯の営業を行なって、それでもオーナーがDKホールディングスから離れていくのであればやむを得なかった。しかし、事前に担当部署からそのような動きがあるとの報告があれば、その時点でX取締役に指示して再び営業してもらったり、岩倉社長や黒田会長からも営業したりすることで物件離れを防げたかもしれない。しかしすでに実務レベルで解約が処理され、担当者にはわだかまりのみが残り、オーナーと解約合意がなされた後、他社との管理契約がなされていた。
黒田会長が本人に説諭した結果、X取締役には退任していただくこととなった。
このような結末となったが、X取締役はDKホールディングスが創業来ここまで成長を遂げた立役者のひとりであった。このため仮に彼が最後までオーナーのつなぎとめや不動産の処分に主体的に関与していれば、新会社セントラルレジデンスの事業基盤はさらに磐石になったであろうし、本人も業界関係者からその能力と責任感を評価されたであろう。そうなればその後は、よい待遇で他社に迎えられることも簡単であったろう。しかし結果はまったく逆のことになってしまった。
近く新会社であるセントラルレジデンスが発足する予定であったが、社員のなかにはそのような旧会社役員にはついていきたくないので、万が一でも新会社セントラルレジデンスに旧会社の役員が戻ってくるようなことがあるのなら、そのような会社には転籍したくない、という声が広がった。
〔登場者名はすべて仮称〕
(つづく)
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