2011年1月、博多港のコンテナターミナル(以下、CT)のエコ戦略が本格始動した。これは国土交通省九州地方整備局・福岡市・博多港ふ頭(株)の共同事業として行なわれ、主となるものはアイランドシティCTのトランスファクレーン(以下、RTG)の電動化および香椎パークポートCTにおけるハイブリッド・ストラドルキャリアの導入である。環境への配慮が問われると同時にエネルギーコストの削減が企業命題となるなか、荷役機械の電動化は不可避といっても過言ではない。同事業は日本初の試みであり、日本のみならず世界中の港湾関係者から注目を集めている。
<RTG電動化が進む中国港湾>
RTGの電動化は、日本よりも先に中国・韓国などが着手していた。その情報をキャッチした博多港ふ頭㈱は、2008年夏頃、広東省深圳港、浙江省寧波港に視察団を派遣。ターミナル全体ではないが、従来の機械の改造が進んでいる様子を確認した。
荷役機械の電動化による最大の恩恵はCO2排出量およびエネルギーコストの削減である。中国への視察後に弾き出した試算では、軽油を使用する既存機に比べ、CO2輩出量で約80%、エネルギーコストも約46%も節減できることがわかった。
日本の港湾荷役システムを大きく転換する国家プロジェクトとして位置づけられ、低炭素社会への貢献・国際競争力を持った世界最高水準のECOコンテナターミナルの実現に向けた技術開発実験として、
国土交通省九州地方整備局・福岡市・博多港ふ頭(株)の協力のもと行なわれることになった。そして前例がないなかで10年4月の着工に至り、11年1月、ついに実証実験がスタートした。
<完全電動クレーンを4基導入>
アイランドシティCTは現在、17基のRTGを所有している。同クレーンは、コンテナ蔵置エリアでコンテナを積み下ろしするための門型クレーンで、ゴム製タイヤで広いヤードを縦横に走行することが可能。そして従来は、クレーンを動かすために必要となる電気をディーゼルエンジン発電機で供給していた。
この従来型を改造し、ディーゼルエンジン発電機から陸上電力給電方式(BUS-BAR方式)へと動力源を変えたものが13基。完全電動の新型RTG4基が、アイランドシティCTに導入されている。完全電動型4基導入は世界初である。
改造型と完全電動型の違いは、給電設備のないレーンとレーンの間における走行の際、前者はディーゼルエンジンを使用し、後者はリチウムイオン電池を使用する点である。また、後者はディーゼルエンジンを使用しないことで、CO2排出量ゼロを達成した。
一方、改造型のほうも既存のRTGと比較した場合、CO2排出量約80%減。アイランドシティCTにある改造型と完全電動型を合わせた計17基で見た場合、年間2,142トンものCO2排出量を削減できる。
この量は、アイランドシティの総面積401haの約1.5倍となる森林面積600haが1年間に吸収するCO2量に匹敵する。ただし、完全電動型には、コスト上の問題として、給電設備がないところで使用する充電式リチウムイオン電池の単価が高いことがあげられる。
博多港ふ頭によると、実証実験では、消費電力やCO2(消費電力換算)などのデータ収集が行なわれている。また、RTGの運転に関しては、使用動力の転換操作以外に従来型と変わるところはなく、今のところ、運用面での問題は発生していない。
【山下 康太】
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