東日本大震災発生から1カ月。この間、さまざまな動きが見られたが、最も注目を集めたのは東京電力の対応であろう。原発事故は未だ収束の気配を見せず、いったん打ち切られた計画停電も夏場には再度動き出す予定とされる。そこから生じる損害は莫大なものになることは間違いない。
これを受けて弁護士業界もにわかに活況を呈し、各自来るべき損害賠償請求訴訟に向けて情報収集を進めている。「東電から損害賠償を勝ち取ることで、被害者救済を通じて社会正義を実現する」との理念を掲げる裏で、人員急増により減収を余儀なくされた弁護士らにとって「数少ない稼ぎ時」との皮肉もチラホラ耳にする。東京電力の利益剰余金は1兆8,314億円(10年3月期末時点)。賠償請求額は1兆円にのぼるとの話もあり、色めき立つのも無理はない。
ただし、彼らの思惑通りに事が運ぶかは疑問の余地もある。一口に賠償請求といっても、原発事故で農作物に出た被害から、計画停電で操業中断を余儀なくされた企業に生じる損害までさまざまなかたちがあり、現段階でメインと捉えられているのは後者のケースである。たしかに、東電は継続的な電気供給債務を負っており、計画停電はこれを放棄するものといえる。また、東電電気供給約款の免責条項における「当社(東電)の責め」の不存在の立証が非常に困難であるため、業界では容易に賠償を取ることができるかのような話が流れていたようだ。
ところが、計画停電が政府の指示によるもの(電気事業法27条)であれば話は変わってくる。すなわち電気の不供給が「当社(東電)の責め」によらないことが明確になってしまうため、東電は免責条項を盾に賠償を拒めるという結論になってしまうのだ。実際のところ、当面の計画停電は4月8日に打ち切られ、本格的な実施が見込まれる夏場には政府が電気事業法27条を発動する方針を明らかにしている。1兆円を超えるといわれた賠償請求訴訟話はご破算になる可能性が高まってきている。
いったん掲げた「被害者救済」の御旗を降ろすのか、それとも新たな法解釈によって救済に道筋をつけるのか。非常時である今だからこそ、彼らが唱える「社会正義」の真贋が問われてくる。
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