上場会社にとって株主総会は一大イベントである。数百人、多い会社では数万人の株主の株主が存在する。株主総会を招集するにはこの多数の株主に召集通知を発送せねばならず、しかも事前に出欠の確認を取るようなことができない。このため、各社ともこれまでの総会出席者数を参考にして会場を押さえたうえで開催する。このため、会社によっては日本武道館のような大きなイベント会場を使用するところや、第2、第3会場を用意して、多数の株主の来場に備えるところもある。
会場だけではない。手続全般が会社法の規定の沿って厳格に遂行されるべきであるとされている。たとえば会社法には招集通知の発送から開催までの間合い期間が定められているが、これに1日足りなかったことで、総会決議が無効とされた判例が実際にある。定時株主総会の議決が無効とされるということは、取締役の改選や配当の取り決めが無効になってしまう、ということであり、一大事である。
召集通知をはじめとする開示書類も、極めて厳密に一字一句誤りがないことが当然とされており、もし誤りがあった場合はWEBなどに掲示することで修正できるが、そのようなことはみっともないとされている。そのため、会社法関係、それに金融商品取引法関係の開示書類の作成は、これらの法令および運用に精通した専門の印刷会社があり、それらのうち一社に委託するのが普通である。上場会社の管理部門では、それらの会社と法令、論理、数値などの観点から綿密な校正を繰り返したうえで開示書類を作成している。
上場会社の株主名簿を管理し、日常的に発生する売買を記録し、期末の名簿を提出する仕事をしているのが、証券代行会社である。株をやっている人は、上場会社から送られてくる召集通知や配当関係書類などの発送元として認識しているだろう。これは信託銀行が兼営しているところと、専業のところがあるが、上場会社はいずれかの会社と契約して、株主名簿の管理を行なわせている。召集通知や決議通知、それに配当関係書類も証券代行会社が封入から発送までやってくれる。
会社では毎年、経験したことのない事柄が発生するので、そのときは会社法の規定や各社の運用事例を見ながら対応していくわけだが、そのときにこれら専門印刷会社や証券代行会社がコンサルタントとしての役割を果たしている。この分野は民事一般の弁護士に相談するよりも、これらの会社に相談するほうが要領のよい回答をもらえる場合が多い。
ともかく、繰り返しになるが、上場会社にとって株主総会は一大イベントであり、上場会社の管理責任者であった私も、社内の他の役員が関心を抱くかどうかは別として、細心の注意を持って取り組んできた。専門印刷会社や証券代行会社に対しては、主に総務部長が窓口として対応するようにしていたが、その要点は常時把握するように心がけていたものである。
今回は、すでに上場廃止となって証券代行会社との契約も解除されており、印刷会社に数十万円を支払うのももったいなく感じられたことから、召集通知はワープロで作成、封入は管理部門社員および役員で手分けして行なった。総務部長は自分でも会社法の規定を確認し、時には以前契約していた印刷会社や証券代行会社にも問い合わせしたが、彼らも「長いお付き合いですから」と、邪険にせず質問に答えてくれた。これらの結果、臨時株主総会の召集通知は無事発送することができた。
〔登場者名はすべて仮称〕
(つづく)
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