福岡都市圏での人の移動は活発だ。いわゆるベッドタウン的存在の近隣市町村から都市部の職場へ通勤している人は数十万人にのぼるほか、都心部の職場へ異なる区から通勤している人も多い。各選挙区で昼間に選挙運動が行なわれたとしても、他の選挙区に職場がある有権者には届かない。
今回の統一地方選においては「誰に入れたらいいのか分からない」という有権者の声が少なくなかった。福岡市中央区在住の30代男性は「選挙期間中、立候補者の街頭演説を見たのは1回。公報やホームページを見比べて考えたが...」と語る。彼は毎日、午前6時に起きて、福岡市博多区の職場へ通勤、最近は残業が多く、午後8時過ぎに帰宅するという。帰宅した頃には選挙運動は終わっているのだ。
春日市から福岡市へ通勤している60代男性は、24日に投開票が行なわれた春日市議選で投票先を決めるのに大いに困惑した。同選挙では、定員20に21名が立候補。先の会社員のケースと同様で、21名の候補者すべての考えに触れる機会がなかった。結局は、妻に「近所からは誰が出ているのか」と聞き、少ない判断材料のひとつにしたという。
「選ぶ」ということは、その前段階に「比べる」という行為がある。比較が困難な状況下におかれた有権者の多くは困惑している。ただ投票所に行き、適当に名前を書くということで義務を果たしたと言えるだろうか。責任感が強ければ強いほど、少ない情報で行なわれる「選択」に抵抗を感じてしまうのは当然だろう。
福岡市南区の70代男性は、今回、同区の県議選が無投票であることを投票所で初めて知った。「無投票になっても選挙ポスターの掲示場は設置されたまま。自分も含め、『選挙がない』ということが周知されていないのではないか」と疑問を呈する。
街頭での活動や個人演説会といった選挙運動を除き、有権者が立候補者の考えを知る手段と言えば、選挙公報やビラなどがある。今は、それに加えてインターネット、すなわちホームページ、ブログなどがあるが、昨年(2010年)夏の参院選前に、寸前まで話が進んでいたネット選挙解禁が保留となって以来、音沙汰なし。前者のうち選挙公報については、県議選についての条例が整備されていないため発行されないという現状がある。
【山下 康太】
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