―では、これからは「ハブ」という言い方はなくなってくるのでしょうか。
星野 少なくとも、博多港はハブ港を目指すべきではないと思います。先ほど松原さんがおっしゃいましたが、日本では国土交通省が京浜港という名前で東京、横浜、川崎を育成し、もうひとつは阪神港という名前で大阪、神戸の競争力を高めると決めているのです。
博多はそれから外れていますし、スケールで言えば上海が2,000万TEU、釜山でも1,500万TEUというぼう大なコンテナ取扱量なわけで、博多港がハブ港を目指すというのは無理なことなのです。
松原 「ハブ港」に代わるものとして「東アジアのマルチ・クロス・ポート」という呼び方があります。博多港を、人、物、文化、情報の交流結節拠点と位置付け、地理的・経済的ポテンシャルや特色ある独自の輸送サービスを活かし、物流の効率化や高付加価値化を進めようという構想です。
そのために福岡市港湾局を中心に、先ほど申し上げた上海や釜山などと博多港を結ぶフェリー・RORO船や、国内では内航船、鉄道、トラックなど多様な輸送モードとの連携によって、国際複合一貫輸送ネットワークを活用した博多港を拠点とする「マルチ・クロス・サービス」の構築を進めているところです。
―博多港を飛躍させるためには、九州アイランドと一体となって動かないといけません。しかし、九州が1割を切る経済となっているなかで、博多港の未来はどうなるのですか。
江頭 仮に博多港がなくなれば、九州の国際物流の窓口を失うわけで、企業活動、市民生活が成り立たないことになりますから、博多港の使命であるアジアのゲートウェイを目指す必要があります。
―アイランドシティの貨物についてはどうですか。
江頭 日本全体がリーマン・ショックの影響で落ち込み、博多港全体もコンテナ取扱量は15%程度落ち込みましたが、その後は順調に回復し、今では過去最高の取扱になってきています。中国貨物が約30%ですが、ヨーロッパも大きいですね。
松原 輸出入コンテナ貨物量60数万TEUのうち、5万TEUがヨーロッパ向けですね。
―話は変わりますが、本当に船って大きいですよね。
星野 最近、MAERSK LINEが1万8,000TEU対応のコンテナ船を韓国のDSMEに10隻納入するという話がありました。全長400mで世界最大級となるようです。
―遠くからアイランドシティのクレーンが毎日動いているのを見ると、痛快に感じますが、これはもっと増えるのですか。
江頭 単独バースのときにはバース長350mを超える船長の大型船は係留できませんでしたので、香椎の連続バースを使いました。今はアイランドシティに連続2バースできましたので係留が可能となりました。インフラ整備は遅れていますね。クレーンに関しても、海外に行けば半端ではない数が並んでいます。船舶は係留中は仕事をしていないのと同じですから、早く荷を積み下ろし、航行する必要があります。博多港は大型船を考えるとクレーンの数もまだまだ足りません。
日本はその点で言えば、1バースにつきクレーンは2~3基が一般的ですが、海外から見たら貧弱な話だと思います。ポートセールスに行っても、クレーンの数は少なくてとても話せません。
松原 国交省では、港の機能を高める、クレーンをつくるというハードの整備のほかに、港に着いてからいかに早く外に出せるかというリードタイム、つまり港に滞留している時間をなるべく短くしようと取り組んでいます。時間が長くなる理由は、船から貨物を降ろすときに輸入手続きに時間を要するからです。
今はICタグをコンテナに付けて、あらかじめ荷物の情報を登録しておき、港についたら輸入手続きを行ない、1個ずつでもすぐに出せるように、博多港で社会実験をしています。
星野 一方で、物流のインフラが整えば物が多く入ってくるかと言えば、これはニワトリと卵の関係のようなものです。物流の発達がなければ荷物が来ず、荷物が来なければ港湾の発達がないわけです。
自動車に関しては、九州のなかでいかに部品を調達するかということに重点が置かれてきましたが、そうではないだろうと思います。付加価値の高いものは国内で、プリミティブな製品は中国や韓国から買ってくるようにすれば、港湾のサービスも充実してくると思います。また、最近は自動車メーカーもそういうかたちに変わってきたところもあります。
【文・構成:徳田 仁】
<出席者> | |
九州大学大学院経済学研究院 教授 星野 裕志 氏 | |
博多港ふ頭(株) 代表取締役社長 江頭 和彦 氏 | |
国土交通省九州地方整備局 港湾空港部長 松原 裕 氏 | |
司会進行 中村 もとき 氏 |
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