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世界の食糧危機をネタに大儲けを目論むアメリカのアグリビジネス(1)
未来トレンド分析シリーズ
2011年4月25日 07:00
参議院議員 浜田和幸

小麦サビ病 「UG99」と呼ばれる小麦サビ病が世界の穀倉地帯を飲み込もうとしている。この病気は1999年にアフリカのウガンダで初めて発見されたカビが引き起こすもの。小麦の茎が枯れるという病気は29年の世界大恐慌の時期、アメリカでも発生し、当時はアメリカの小麦の収穫量が20%もダウンするという事態が生じた。

 また、62年にも小麦サビ病がアメリカを襲い、5%を超える穀倉地帯が被害を受けた。その後、こうした病気に対する抵抗力を持つ品種が次々と開発されたため、小麦が絶滅するような危機的状況は観測されなくなっていた。ところが、突然のごとくアフリカを舞台にし、小麦の茎に感染する新たな菌が生まれ、ケニアから世界各地に広がりつつある。

 すでにこの胞子が偏西風に乗りイランなど中東地域に広がり、さらにはパキスタン、インドという南アジアへも拡散し、このままいけば中国や東アジアへの感染が懸念される。かつてこの病気に悩まされたアメリカでは、農務省や各地の大学の研究者たちが警戒態勢を強化している。何しろ、現在のペースで被害が広がれば、世界全体で80%近くの小麦が壊滅的な打撃を受けることが想定されるからである。

 万が一の場合、全世界で30億人近くの人口が食糧危機に直面することになる。国連食糧農業機関(FAO)をはじめ欧米のアグリビジネスの間では、このUG99に対し抵抗力のある品種開発に取り組んでいるが、毒性が増しているため現時点では成功していない。モンサントやシンジェンタなど遺伝子組換え種子の開発メーカーでもビジネスチャンスと捉えているが、肝心の新製品の開発には5年程度の時間が必要と見られている。とはいえ、緊急対応の耐性品種の投入も徐々に進められている。いずれにせよ、各国の間では小麦の備蓄体制の強化が始まった。

 2009年3月にはメキシコに40カ国の小麦の専門家が集まり、UG99に対する国際的な防御態勢をいかに構築すべきか協議の場がもたれた。GPSを使った監視体制も29カ国で始まった。残念ながら、日本の対応はあまりにもスローである。農林水産省でも厚生労働省でも情報収集にはあたっているが、国内需要の90%を海外に依存しているにも関わらず、小麦をめぐる深刻な状況にどう対処すべきか基本戦略がないままだ。このままいけば、小麦価格の急騰は避けられず、新たな食糧パニックに突入しかねない。

(つづく)

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<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ かずゆき)浜田 和幸(はまだ かずゆき)
参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。


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