そこで彼が唱えたのは太陽光エネルギーで発電される電力を全量、電力会社に固定価格で買い取らせる「全量買い取り制度」の導入だ。ドイツは20年間にわたって1キロワットアワーあたり42.9~54.9円で、スペインも同じように25年間にわたって41.6~44.2円の固定価格で買い取る政策を導入している。EU平均での買い取り価格は58円だ。こうした政府の政策誘導があるため、EU諸国は2020年までの自然エネルギー構成比をスペインだと29%、ドイツも25~30%、イタリアは23%などに引き上げる計画を示している。
日本でも家庭用太陽電池パネルが普及したのに、経産省は2005年に補助金を打ち切って普及が尻すぼみになった。この間、固定価格買い取り制度を導入したドイツは一挙に太陽光発電量を増やし、先行していたはずのシャープや京セラを抜いて独Qセルズ社が世界最大の太陽電池メーカーに成長した。日本は明らかに政策の失敗である。
「固定価格の買い取り制度。これが肝です。欧州の急所はここです。これがないと投資回収のリターンがない。だから作らない。大きなトレンドとしてこういう方向に持っていくという、大きなビジョンを政府が描くべきです」(孫社長)。
孫氏の政策提言は、1キロワットアワー40円で20年間電力会社に買い取らせる制度をつくり、その分割高になった電気料金は引き上げるというもの。彼の試算だと、現在の1世帯あたり8,000円の電気料金は500円高い8,500円程度にすることで収支が合うという。「この数週間猛勉強した」という孫社長はすっかり自然エネルギーに魅せられたようで、被災者支援の100億円の寄附とは別に、自然エネルギー財団の設立に個人資産10億円を投ずる。世界中の科学者や研究者に日本政府に政策提言できるようなシンクタンクとするつもりで、数カ月以内に設立するという。「10億円で足りなかったら逐次僕が入れます」と追加出資も辞さない考えだ。
孫氏は今年年初早々、週刊ポストで始まった佐野真一の連載「あんぽん」でずいぶんな書かれ方をしてきた。「うさんくさい」「いかがわしい」という上から目線の書きっぷりで、守勢に立つNTTや総務省のキャリア官僚が溜飲を下げそうな内容だった。表情には出さないが、本人はおそらく非常にくやしい気持ちでいるに違いない。震災後の彼の気前のいい寄附や政策提言は、孫氏を嘲笑してきた既得権益にしがみつくエスタブリッシュメントを見返しているかのようである。
【尾山 大将】
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