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特別取材

市民と共生する博物館(5)~歴史におおらかな日本
特別取材
2011年5月 3日 07:00

九州国立博物館 館長 三輪 嘉六 氏

 日本からアジアへ飛び出してビジネスしようとする場合、よく「相手の歴史・文化の違いを把握しておく必要がある」と言われる。商習慣の違いなどにつながるからだが、では日本人は本当に自国の歴史・文化をきちんと踏まえたうえで海外進出を考えているのだろうか。観光についても同様のことが言える。こうした問いに答えるヒントを得るべく、九州国立博物館館長の三輪嘉六氏に、長く歴史・文化の分野に携わってきた立場から話を聞いた。

(聞き手、文・構成:I・B編集長 大根田 康介)

 ―ルーブル美術館では写真を撮り放題で驚きました。日本ではそうはできません。

九州国立博物館 館長 三輪 嘉六 氏 三輪 なかなか日本では難しいでしょう。1つは著作権の問題、もう1つは文化財の保存の問題があります。とくに日本の展示品は有機質の紙や漆など、また光や温湿気に弱いものが多いです。そのため、ほかの国よりも館内の照明が暗いと思いますが、それは保存上の配慮からそうしています。
 極端な話ですが、源氏物語と油絵では、古さも素材もまったく違います。もちろん、中国やエジプト、ローマなどにも古い文化財はたくさんあります。しかし、それらは出土品です。18世紀ころまでの長い間、土のなかに眠っていたものです。ヨーロッパの動産文化財などでは、古いといっても12〜13世紀あたり、むしろルネッサンス時代くらいのものが圧倒的です。
 日本は7世紀の文化財が普通の蔵のなかに入っていました。それらは伝世品と呼ばれますが、古さや脆弱性がまったく違います。そのため、外国人が正倉院などを見ると古さと美しさにビックリします。7世紀あたりの文化財が普通に蔵のなかに収蔵されているわけですから。
 しかし、こうした点については、実は博物館の人たちもしっかりPRしていません。そういうのも見せ所のひとつとしてあるはずですが、日本人にとっては当たり前のことですから、そのあたりの感覚がマヒしているのでしょう。その意味で、観光という点から見れば、博物館全体としては、まだまだ"観せ方"を研究していく必要があるということです。
 文化財は、それまでのものを保存していくことだけが重要なのではなく、そこから次の文化が創設されていくことの大事さを知る必要があるでしょう。

 ―日本人がきちんとしたアイデンティティーを、歴史に基づいて持っているかというのが疑問です。

 三輪 それは、日本が島国だからそこに気づいていないというのが過去の歴史だと思います。わざわざ教育を受けるまでもなく、日常生活のなかで日本というものを理解してきたのでしょう。
 一方の欧米は侵略の歴史で、最近話題となっている中近東なども、時代によって版図が大きくなったり小さくなったりしています。そういう繰り返しのなかで、自国の歴史をどう築くか、自国の文化をどのように守るかということに対して日本よりも意欲は強いでしょう。ある意味で、日本はそこがすごくおおらかなのです。

(つづく)

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<プロフィール>
三輪 嘉六 氏三輪 嘉六(みわ かろく)
1938年岐阜県生まれ。奈良国立文化財研究所研究員、文化庁主任文化財調査官、東京国立文化財研究所修復技術部長、文化庁美術工芸課長、同文化財鑑査官、日本大学教授などを経て、2005年から現職。専門は考古学、文化財学。現在、文化財保存修復学会会長、NPO法人文化財保存支援機構理事長、NPO法人文化財夢工房理事長、「読売あをによし賞」運営・選考委員など。主な著書に、「日本の美術 348家形はにわ」(至文堂、1995年)、「美術工芸品をまもる修理と保存科学」(『文化財を探る科学の眼5』国土社、2000年)、編著に「日本馬具大観」(吉川弘文館、1992年)、「文化財学の構想」(勉誠出版、2003年)など多数。


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