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特別取材

市民と共生する博物館(9)~地域の文化的景観に
特別取材
2011年5月 7日 07:00

九州国立博物館 館長 三輪 嘉六 氏

 日本からアジアへ飛び出してビジネスしようとする場合、よく「相手の歴史・文化の違いを把握しておく必要がある」と言われる。商習慣の違いなどにつながるからだが、では日本人は本当に自国の歴史・文化をきちんと踏まえたうえで海外進出を考えているのだろうか。観光についても同様のことが言える。こうした問いに答えるヒントを得るべく、九州国立博物館館長の三輪嘉六氏に、長く歴史・文化の分野に携わってきた立場から話を聞いた。

(聞き手、文・構成:I・B編集長 大根田 康介)

 ―福岡市は、観光という観点からの街づくりがまだまだできていないと感じます。逆に太宰府はずっと観光拠点ですから、そういう意味では街づくりができているのではないでしょうか。

 三輪 ところが、インフラの整備という観点で言えば、開館して5年以上経ってつくづく感じるのは、1年間に100数十万人の方が訪れるという意味でのインフラ整備がなされていないことです。もともと当館は、太宰府という福岡市の都心部から離れたところだったということもあり、福岡市博物館のピーク時の37万人くらいの入館者を想定していました。しかし、今は時として道路が渋滞するなど不便が生じています。

 ―今の福岡は市場の頭打ち感があるなかで、アジアからの人を受け入れる体制を急いでつくらなければならないという、一種の焦燥感のようなものがあると思います。その1つが九州観光推進機構のような組織だと思います。

 三輪 わかりやすいのは、看板の整備やキャプションへの外国語の付与などですが、本当にそれだけかなと思います。昨年11月、文化庁と福岡県の国際文化フォーラムで「文化観光の可能性」というテーマでお話ししました。結論としては、博物館は「文化観光」の拠点になりうるし、そうでなければならないということです。
九州国立博物館 館長 三輪 嘉六 氏 観光の定義そのものの問題もありますが、九州で言えば、もっと白砂青松を復活させるべきだと思います。昔、オリンピックの話が出た祭、博多湾に白砂青松をつくって福岡に誘致するといった話が出てくることを期待したこともありましたが、そういう話にはなりませんでした。
 当館はずっと「市民との共生」をテーマに掲げていますが、やがてはこの地域の文化的景観になっていきたいですね。まだハードしての建物というだけかもしれませんが、地域に愛される景観として、地域の誇りとなっていく。そういうあり方、拠点になっていくのが目標です。また、当館の付近には大宰府政庁や大野城、水城など歴史的価値の高い文化財がありますから、そうしたものに生かされた文化的景観のひとつになりたいと思います。また、国際交流拠点として日本のアイデンティティーを示す場にもしていきたいですね。

(了)

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<プロフィール>
三輪 嘉六 氏三輪 嘉六(みわ かろく)
1938年岐阜県生まれ。奈良国立文化財研究所研究員、文化庁主任文化財調査官、東京国立文化財研究所修復技術部長、文化庁美術工芸課長、同文化財鑑査官、日本大学教授などを経て、2005年から現職。専門は考古学、文化財学。現在、文化財保存修復学会会長、NPO法人文化財保存支援機構理事長、NPO法人文化財夢工房理事長、「読売あをによし賞」運営・選考委員など。主な著書に、「日本の美術 348家形はにわ」(至文堂、1995年)、「美術工芸品をまもる修理と保存科学」(『文化財を探る科学の眼5』国土社、2000年)、編著に「日本馬具大観」(吉川弘文館、1992年)、「文化財学の構想」(勉誠出版、2003年)など多数。


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