15日、1月30日から7回に渡って開かれた「こども病院移転計画調査委員会」(委員長:北川正恭 早稲田大学大学院教授)が終了した。そのなかで福岡市立こども病院(福岡市中央区)の建て替えについて、現地建て替えのほか、最終的に5つの移転先候補地についての検討も行なわれた。
同調査委で検討された移転先候補地は、最終的に九州大学六本松キャンパス跡地(中央区)、当仁中学校跡地(城南区)、香椎副都心土地区画整理地区(東区)、アイランドシティ(東区)、九州大学箱崎キャンパス跡地(東区)。そのほか、九州大学病院の敷地内(東区)については、同病院の利用計画があるとして候補地からはずされている。
現地建て替えは、診療を続けながら部分的に建て替えを行なうローリング工法のため費用と時間(工期)がかかること、土地が狭小などのデメリットが指摘された。移転新築先については、六本松キャンパス跡地と香椎副都心土地区画整理地区は、候補地が二区画に分割されている、土地単価が高いといったデメリットが指摘された。当仁中学校跡地については、不整形地で敷地面積が狭いとの意見があった。
移転先の比較・検討において、最も重要な「医療の質」を考えれば、敷地の条件に問題を抱えるこれらの候補地は、まず除外されると言ってもいいだろう。そもそも敷地条件に問題がある候補地を含めることは、選択肢を増やすことで不満を軽減させることがねらいと言える。消去法で残る選択肢は、アイランドシティか九州大学箱崎キャンパスだ。
アイランドシティについては、震災時に孤立する恐れがあること、市西部の2次医療空洞化を招くといった問題点の指摘があった。ただし、すでに用地取得など、計画が進行している点では、3年5カ月と最も新病院開業までの期間が短いとされ、こども病院院長の福重委員と小児科医代表の清松委員からは、狭小で老朽化した現病院の医療現場は限界に達しているとの見方から、「一刻も早い開業をするうえではアイランドシティ」という意見があった。
さらに市からは、すでに新病院整備の目的で用地を取得しており、病院用地として活用しなければ約44億円を速やかに金融機関に返済しなければならないとの説明があった。
アイランドシティと同じ東区の九州大学箱崎キャンパス跡地については、「地下鉄・高速・基幹道路・JRなど交通の便が良い」とのメリットがあげられた。また、同跡地については、全国的に数の不足が問題となっている産科医・小児科医・麻酔医の育成も考慮したFMC(フクオカ・メディカル・コンプレックス)構想をふまえ、九州大学病院との連携が可能とする意見もあった。
しかし、開業までの期間は、6年8カ月と候補地のなかで2番目に長い(最長は、現地建て替えの9年6カ月、その他の3候補地は5年9カ月)とされている。また、航空機運航直下にあり、騒音レベルが厳しいとの指摘もあった。
さまざまな観点から比較・検証が行なわれたが、今出されている根拠をもとに考えると、「時間」という点ではアイランドシティ移転を最有力とせざるを得ない。たびたび「人工島移転ありき」との批判が委員会内で出たが、市が、同調査委の参考資料に1日も早い新こども病院の開院を求める「福岡市医師会からの要望書」(4月14日)を加えている事実も、こうした疑念を招く原因となった。
しかしながら、同調査委が検証結果の報告で指摘しているように、こども病院移転計画の不透明なプロセスが市民の不信を買い、計画進行の停滞を招いたのは事実である。「時間」を最大の理由として移転候補地を選定するのならば、その責任が問われるであろう。「19年度計画」の最高責任者と言える前市長・吉田宏氏が、2期目の選挙で再選しなかったことで一応の決着がついたというならば、同調査委が代替案となる有力な候補地を推すことなく総論表記とした時点で、アイランドシティ移転へのストーリーは完成したと言える。
こども病院の将来は、同調査委の報告を受けた高島市長の判断に委ねられた。どの候補地もメリットとデメリットがあるなか、高島市長は「問題をどう解決していくかが行政の役割」との見解を示している。
【山下 康太】
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