<中小企業オーナーは脱国し、カナダへ>
本稿の見出しに、最初から首をかしげる方も多いだろう。「中国は社会主義国家だろう」と強い反論が生ずるだろうが、"真実"は半分しか当たっていない。たしかに政治体制は社会主義だが、経済活動の体制は初期資本主義体制を導入してきた。その舵取りの方向転換をしたのが鄧小平である。鄧小平は、民間中小企業のオーナー経営者の能力を先行馬に仕立てて中国経済の活性化を図る深謀な戦略を行なった。この戦略は見事に当たった。
要は、中小企業オーナーが儲かるためには多少の労働者の犠牲にも目をつむったのである。資本主義初期の時代の搾取には見てみぬふりをしてきたのだ。5年前までは中国の中小企業経営の実態を垣間見ると「これでは日本の企業のほうが従業員待遇に関しては手厚いな。社会体制は日本のほうが社会主義だ」と実感してきた。実際のところ、日本は「経済体制は資本主義、社会体制は社会主義」という特性を持ってきたと言える。
ところが中国共産党政府も政策の方向転換を行なってきた。本来の社会体制のなかで社会主義的手法が復活し始めたのである。労働者の権利保護を強めだしたのだ。背景には、人民のなかで「所得格差・身分格差」への怒りの念が高まってきたからである。この流れには中国共産党トップも危機感を抱いている。
労働者の権利擁護を裏返すと、それは"中小企業のオーナー経営への制限"となる。目敏い経営者たちは「これからは中国で商売をしていても儲からない。搾取されるぞ!」と判断して脱国行為に踏みだした。行き先はカナダ――。
しこたま金を持って脱国した数はこの1年で5万人に達すると言われている。
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