「大腸菌をはじめとして菌はどこにでもいます。食に携わる人間はいかに菌に注意して調理するのかにかかっています」。食肉卸業者のA氏によれば大腸菌をひとつとってもすべてが悪い菌ではなく、今回死者を出したO-011、過去に問題となったO-157のような菌は病原性大腸菌と言われる。「たとえば衛生面もバッチリな肉を飲食店に納めても、まな板が汚れていたらダメ。ダスターできちんと拭き取ったとしてもダスター自体が不衛生ならば逆に菌を広げることになります。作業中に包丁を床に落とし、そのまま使うのはもってのほか。菌は時間が経つにつれてどんどん繁殖するから怖いんです」。
A氏の会社は先日、ひとつの実験を行なった。肉を焼くロースターの近くにユッケを置き、時間の経過と共に大腸菌の数を調べたところ、出したばかりの肉に付着していた菌の数と、出して30分近く経過した最後のひと切れに付着していた菌の数は数倍の差があったという。「今まで私も経験がありましたが、焼肉店でお腹いっぱい食べる事でお腹が痛くなる経験が何度かありました。しかし、これは最後に残ったユッケのひと切れをもったいないから食べたことにより起きたことで、実際は食べすぎではなく、食あたりを起こしていたのかもしれません」とA氏は分析する。今回の食中毒事件のほかに公にはなっていないものの食あたりのような軽度なものが実際には多発している可能性がある。
ならばどのようにすれば今回のような食中毒事故が防げるのだろうか。それは提供する側の衛生管理がまず第一であるが、出されたものは早く食べることだ。大腸菌が繁殖する前に食べることでリスクを最小限にすることは出来る。国や地方自治体などが盛んに言う子供やお年寄りは食べないほうがよいだろう。中国の毒餃子事件以降、度々食の安全がクローズアップされてきたが、われわれは自己防衛のために改めて食の基礎知識を勉強しなければならない。ユッケが焼肉店で完全に復活するためには提供する側の努力だけではいけない。
【流通取材班】
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