結果を見れば、福岡市7区で最大の接戦が行なわれた選挙区と言ってもいいだろう。4月10日に行なわれた福岡市議会議員選挙で東区は、最後の当選者と最下位の落選者の差が89票。4,716票から4,805票までの範囲に5名の立候補者がひしめいた。同選挙において、次点との差わずか21票で当選したのが、みんなの党福岡市議団で代表を務める吉武輝実市議である。勝敗を分けた理由は一体何だったのか―。
吉武市議は取材に対し、今回の選挙における大きな背景について、第一に3月11日に発生した東日本大震災をあげた。「震災発生後、有権者の反応は冷めたものとなり、各候補者の訴える内容が変わった」という。東区のみならず、福岡市全体でも多くの市議選立候補者が、防災対策を訴え始めた。統一地方選として4月に行なわれた他自治体の選挙においても、有権者の関心に合わせるかのように各地域の防災がテーマとなった。
そのようななか、今回が人生初の選挙となる吉武市議も防災対策を急きょ、街頭演説の内容に組み込んだ。吉武市議のみんなの党は、ローカル・アジェンダ(福岡市版・政策課題)を作成していたがそのなかに防災対策が組み込まれていなかったためだ。
しかし、選挙戦は明確に差が見えない大混戦の様相。「自分が本当に訴えたいことを伝えずして落選したら悔やみ切れない」と、吉武市議は市議を志した原点に立ち返った。
政治活動を始める前、吉武市議は、プレス機械の製造会社で総務責任者を務めていた。リーマン・ショックの影響を受け、会社の業績が悪化。売上は半減し、一気に赤字となった。役員報酬の削減、一般社員の報酬および給与の削減、そして解雇と、エスカレートしていくリストラを実施していく立場に置かれた。
しかし、目を転じて福岡市政を見れば、約2兆5,000億円、市民ひとり当たり170万円という市債残高がありながら、議員報酬や公務員人件費の削減が行なわれていない。「責任をとっていない。民間の感覚とかけ離れている」という強い問題意識が、吉武市議が市議を志した原点であった。
選挙運動では「議員定数2割削減と議員報酬(給与)2割カット」「市職員数や給与などの見直し、総人件費1割削減」など党のローカル・アジェンダを有権者に訴え続けた。僅差の結果のため、それが明確な勝因とは言い難いが、他の立候補者との"差別化"が行なわれたことは間違いないだろう。
「私の訴えに投じられた一つひとつの票に込められた想いに全力で応えていきたい」と語る吉武市議。市議会では、経済振興局や港湾局などを所管する第3委員会の副委員長を務める。民間企業で働くサラリーマンの苦境を知る庶民派市議が、市議会に新風を吹き込めるか否か。今後の活動に注目したい。
【市政取材班】
*記事へのご意見はこちら
※記事へのご意見はこちら