福岡から、船で約2時間の場所に浮かぶ島・壱岐。この島で生産されているのが、『壱岐牛』というブランド牛である。
『壱岐牛』は、壱岐で生まれ、壱岐で育てられた純粋培養の牛のこと。血統上肉質が柔らかく、味わい深い極上の霜降りが特長で、これは島を囲む海からの潮風を受けたたっぷりと塩分を含んだ牧草を食べて育つためである。その歴史は古く弥生時代にまでさかのぼり、かつて平安時代には牛車をひく駿牛として重宝されていた時期もある。
『壱岐牛』は、「地域内一環経営」で育てられている。これは、子牛の段階から肉牛までを同一地域で一貫して行なわれるもので、全国的に見ても事例が少ない。たとえば、ブランド牛として圧倒的な知名度を誇る「松阪牛」も、松阪で生まれた子牛が育てられているわけではない。他地域から肉質の良い素牛(もとうし)を買い付け、松阪で育てることにより「松阪牛」となるのである。
ちなみに、「松阪牛」や「神戸牛」などのブランド黒毛和牛の素牛として、『壱岐牛』の子牛が買い付けられるケースもある。
野元牧場は、島内で子牛30頭、繁殖牛57頭、肥育牛240頭の計327頭(4月16日現在)の『壱岐牛』を肥育している牧場である。
代表の野元勝博氏は、かつては壱岐郡農業協同組合(現・壱岐市農業協同組合)で畜産の指導を行なっていた。しかし、当時の壱岐は他地域への素牛として子牛を生産する地域であり、肥育はほとんど行なわれていなかった。
「壱岐の子牛が安い原因は何なのか」「良い肉はできないのだろうか」と感じた野元氏は、島内での畜産振興を普及させようと、1994年に「壱州枝肉研究会」を設立。同年、現在の牧場を作り、99年3月に農業協同組合を退職。現在、総面積3,600㎡の牛舎で肥育を行なっている。
牧場を経営するにあたって、野元代表は「『悔いのない生産をする』という信念を掲げています。枝肉格付けではA5ランクを目指して肥育しますが、ときには3等級の評価を受けることもあります。しかしそれでも、その枝肉に対して、一切手抜きはしていません。一生懸命やっての評価であれば、等級が何であれ、自信を持って出すことができます。すべてにおいて、悔いのない肥育を行なっていきます」と語る。
この信念のもと、「第35回日本農業賞 優秀賞」を受賞するなど、野元牧場は高い評価を受ける枝肉を生産している。
【長嶋 絵美】
<お問い合せ>
野元牧場
長崎県壱岐市郷ノ浦町志原南触1374
TEL:0920-47-2860
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