交通事故の被害者にとって、保険会社との交渉は苦痛以外の何物でもない。人身事故と物損事故とで複数の担当者が付き、車の修理箇所の確認や通院先の連絡を逐一求められ、それらがひと通り済んだ後は賠償金額のやりとりで更に時間を取られる。その際にも「過失割合が...」「自賠責基準では...」「当社の基準では...」などと、素人に分かりにくい基準を持ち出しては支払いの範囲を限定しようとしてくる。賠償の額を抑えるのが彼らの仕事である以上、このような対応も仕方無いのであろう。被害側は首を傾げながらも、「損保会社は一流企業。不当な基準を持ち出してくる筈はない」との先入観から、最終的には押し切られてしまうというのが一般的ではないだろうか。
しかし、実はそこに落とし穴がある。交通事故で損害賠償額が争われる際に、これを決める権限を持つのは裁判所である。すなわち裁判所の基準こそが唯一無二の適正な基準となるのだが、これらふたつの基準の間には大きな開きがあるのだ。この点は「交通事故査定のバイブル」とも言われる『別冊判例タイムズ/民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準/東京地裁民事第27部編』に詳しい。同書では裁判所基準の6~7割に設定されている損保各社の自社基準の実態に触れ、担当裁判官の懸念が記されている。つまり、裁判を経ない交通事故での賠償金は、多くが適正額の3~4割ほどをピンハネされていることになるのだが、「事故のことでゴネたくない」と考える善良な市民ほど被害に遭いやすい構造になっている点でタチが悪い。
対処法はいたって簡単で、裁判所基準を熟知する弁護士に相談すればよく、それだけで3~4割増=1.5倍になる可能性が高い。弁護士費用の心配がでてくるが、近時は上乗せ額の○○%という成功報酬型を取る事務所も多く、その場合には経費倒れになることも無い。額の算定だけを請け負う行政書士事務所などもあり、そこで得られた資料を活用する方法もあろう。
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