先般破綻した武富士に対する過払い金返還請求は90万7,787件、金額にして約1兆3,700億円となった。200万人程度が返還請求権を持っているとされていたため、おおむね半数程度が返還請求を行なったことになる。かつての消費者金融最大手とはいえ1社で1兆円を超える額には驚きを禁じ得ない。また、消費者金融業界全体ともなればその額は莫大なものとなる。2割程度が弁護士や司法書士の懐に入るであろうことからすれば、頻繁に見聞きする「過払い金のご相談は...」といったCMの多さにも納得がいく。
もっとも、過払い金ブームはすでに過去のものになりつつあり、これはデータの上からも明らかになってきている。福岡県においては、県弁護士会が県下の法律相談センターで多重債務に関する相談を無料化したことを契機に相談が急増し、2007年度には相談件数にして約2万(うち多重債務関係は約1万1,200件)と過去最高を記録していた。しかし、2010年度の相談件数は約1万4,800件にまで下落。多重債務関係も約6,100件にとどまったとのこと。これは相談無料化前とほぼ同程度の値であり、特需の終焉を明確に映し出したものといえる。
そこで今後の関心事は「次はどの分野で稼ぐのか?」ということになるのだが、大手企業との関係ではIFRS(国際会計基準)に沿った未払い残業代の請求、中小企業との関係では経営相談やコンサルティング業務の充実というのが各事務所の一般的な方針ではないだろうか。遺言や相続、いまだ十分に浸透していない成年後見人なども社会の高齢化に伴い需要が高まりつつある。ただし、過払い金請求のような濡れ手で粟の状況はもはや望むべくも無く、得意分野に磨きをかけることで生き残りを図ろうとする動きが若手の法律家を中心に見られる。
余談だが「過払い金返還請求で急拡大した事務所では、事務員余りとリストラに直面するだろう」との声がある。「事務員たちが企業内労組の立ち上げに走るのでは」といった皮肉めいた声もあがるが、業界環境が厳しさを増すなかでは他事務所への再就職も容易では無い。焚きつける訳ではないが、一考に値する案ではなかろうか。
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