今回、旧三井の車谷氏が獅子奮迅の働きをした背景には、奥氏の後を継いで今春誕生した宮田孝一三井住友FG社長―國部毅三井住友銀行頭取体制の次代の後継者の地位につきたい思惑があるからだと見られている。奥、國部、車谷の3氏は今の三井住友を仕切るトロイカ体制を組んでいる。「なかなか腹の座った人です。週刊誌や全国紙に子飼いの記者がいて、よく情報をリークして既成事実を積み重ねていくのがうまい」、そう彼を知る他行の幹部やコンサルタント会社の幹部は言う。
今回の東電問題では、車谷氏が関わった三井住友案が実質的に政府案へ反映されており、次代のエースとしての地歩は固めた模様だ。ただ気がかりなのは、マスコミの評価を異様に気にする民主党の政治家たちが、今回の東電救済スキームが想像以上に世間で評判が悪いことで、あえて担いでまで法案化する意欲が減退している点だ。
当初は閣議決定するというふれこみだったが、土壇場になって政府の最高の意思決定機関である「閣議」よりもランクの低い、法的な位置づけが曖昧な関係閣僚会合で了承、という形態をとっている。過去に起きた事故の処理費用を、これから参加する電力各社に強制的に分担させるという方策が、法制度上難しいらしく、実は支援スキームの骨格が脆弱なのだ。
奥、國部、車谷の3氏は2009年に日興証券グループを傘下に収めることに成功している。あのときは、かねてから資本・提携関係にあった大和証券グループと合体させて野村証券グループと覇を競い合う算段だったが、大和が仇敵の日興と一緒になることを潔しとせず、三井住友を離反。ついには友好関係の解消という断絶に陥った。三井住友の強引なやり口に怒ったのだ。
今回の東電救済スキームでも、あのときのような「策士策におぼれる」失敗例が想起される。債権者だけが保全され、電力料金の引き上げや税金投入によって国民負担ばかりを押し付けられてはたまらない。自分のことしか考えていない強引な商法をゴリ押しすれば、国民から批判をあびるのは確実だ。
【尾山 大将】
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