4月10日執行の福岡県議選における激戦区のひとつが春日市選挙区(定数2)である。前回(2010年)の選挙では那珂川町と春日市を合わせて定数2だったが、今回から春日市単独となり、議席もひとつ増えて定数2となった。しかし、現職1名、新人4名が立候補し、大混戦の様相を呈した。そのなかで1万293票を獲得し、トップ当選を果たしたのが、元春日市議の松尾嘉三県議である。
<港のない貿易港へ>
今回、松尾県議は、自民党・農政連の推薦を得て無所属で出馬した。選挙戦を通じて訴え続けたのは、「土地がない」「前例がない」という消極的姿勢を打破し、「春日市のように土地が無くともできることをやり、"オンリーワン"のまちづくりを目指す」というビジョンであった。
そのなかには、特許や商標権などの知的財産について取得を目指す市民に対し、その特許申請費用などを市が助成し、日本が誇るアニメーションやミュージック、ファッションなどの文化産業を創出していくことが提案されていた。また、それによって市民によるインターネットなどを使用した通信販売が普及し、子育てをしながらの理想的なマイホーム・ビジネス家を奨励することができるといったアイディアも含まれていた。
また、春日市は、福岡都市圏の交通の要衝都市として商業開発、住宅開発、マンション開発などが進み、それに伴い田畑が減少、自然のため池などが埋め立てられ、アスファルトやコンクリートで張り巡らされる都市化(自然の保水機能が消滅)が進んだ。松尾県議は、ゲリラ豪雨対策(雨水貯留槽システムの導入)の推進を訴えた。
一方で、各都市間を結んでいる県道31号線(旧5号線)など主要幹線道路の拡幅を進めなければ根本的な商業チャンスは生まれないという。また、旧住宅街にて消防・救急活動に支障をきたす「狭隘(きょうあい)道路」問題の解消など、春日市民の生活と安全を守る施策も訴えてきた。それらの訴えの背景にあるのは、「ほかのどの候補者よりも春日市のことを知っている」という自信であった。
キーワードは「熟知」。松尾県議は生まれも育ちも春日市小倉。さらには先祖も代々、春日市で暮らし、その変遷を見てきた。その先人たちの知識(歴史)も引継いだうえで春日市議となった。「ゲリラ豪雨災害の対策について市議会で質問するとき、春日市全体の細かく数値を書き入れた標高図を出して説明しなければ、その危険性が執行部や他の議員に伝わらないことがありました」と、松尾県議。誰よりも春日市のことを知っているからこそ、まちへの想い、そして危機感は人一倍強い。その想いは選挙運動中、有権者へ訴える語気が自然と熱を帯びていったことにうかがえる。
<廃県置藩、九州独立構想>
一方、福岡県全体のことも考えなければならない県議として、松尾県議は「オンリーワンのまちづくり」の先に道州制を見据える。「明治維新の時代は、富国強兵を合言葉に廃藩置県による中央集権化を行ない、それを百数十年維持してきましたが、これからの21世紀の国家のあり方は、言うなれば"廃県置藩"を行なった先にあります。九州はGDPでもオランダやベルギーと同格です。九州独立構想を打ちたて、経済政策から教育まで全国一律という現状から早く脱却すべきです」と、松尾県議は語る。
道州制の実現のためには、より深い見識とより広い視野が地方議員にも求められる。地域の実情をしっかりと把握した上で、中央集権体制という前例にとらわれず、ビジョンを持つことが必要だ。松尾県議の今後の活躍に期待したい。
【県政取材班】
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