伝統工芸品「博多織」の商標をめぐり、2つの組織が裁判で対立している。1つは織元などを中心に構成される博多織工業組合。もう1つは無料着付け教室で成功を収め、「博多帯」を立ち上げたJASDAQ上場企業の日本和装ホールディングス(株)だ。どちらも福岡の地で育まれ、「博多」への熱き想いを抱いているがゆえに衝突してしまった。今回、渦中の博多織工業組合・寺嶋貞夫理事長と日本和装・吉田重久社長の両者に、それぞれの胸中を語ってもらった。
―私はちょうど、京都の呉服販売大手である「たけうち」が倒産したとき、西陣の呉服問屋で働いていました。
寺嶋 それなら業界のことはお詳しいでしょう。たけうちが倒産したとき、後藤がたしか5,000万円くらい焦げ付き、「大丈夫だろうか」と心配したことがありました。あれが倒産の一番の原因でしたね。
倒産というのはボディーブローのようにジワーっと効いてきます。まず資金繰りの問題があります。当然のことですが、ただこれはメインバンクとの相談で何とかなります。しかし、販売先を失うでしょう。これが一番こたえると思います。
今もこの業界は手形商売で、悪いところはサイトが180~200日のところもあります。本当は120日くらいが良いのですが、かなり改善されてきました。今、組合は49社ありますが、その8~9割が現金決済になってきています。「規模が縮小したとしても、足元をきちんと固めるように」という方針を打ち出しておりますが、だんだんそうなっていると思います。
―後藤の倒産品はどこへいったのですか。
寺嶋 私も倒産を耳にしてすぐ、「商品が外に流出したら問題があるから、できるだけ取引先に返品しなさい」と後藤とかけ合ったため、ほとんどが織元に戻ったはずです。そのほうが、後々の悪影響が少なくて済みますから。後藤が倒産して安いものが市場に流れたという話は聞かないですね。
―日本和装が上場企業だから組合の足元を見てきた、ということはありませんか。
寺嶋 たしかにそのようにとれる発言もあったかもしれませんが、そのような評価はあちらの意図するところではないかもしれませんので、それについては何とも言えません。
ただ「我々は売上云々という問題ではない。あなたの話を聞く耳は持たない」とは伝えました。それがこの場所(組合の事務所)で1回目に話し合った結果です。あのときは裁判をしようとは考えていませんでした。
―最初の結審までにどのくらいの時間がかかりそうですか。また、過去に同じような問題はありましたか。
寺嶋 私には結審時期はわかりませんが、こんな問題は1年で解決させたいと思っています。私は理事長を6期(1期2年)務めており、現在11年目になります。過去にも非組合員が同じようなことをして、警告したらやめたという事例はあるとも聞いていますが、ここまで堂々とするのは初めてのことだと思います。
今回の裁判は、日本の文化を守るために大事なことです。こんなのがまかり通れば、博多織がなくなってしまいますし、どこの産地も崩壊します。そのため、私は毅然とした態度で臨みたいと思います。
私もこの年になっていろいろな公の職に就いていますが、皆さんが「理事長、頑張ってください。応援していますよ」と言ってくれると思います。福岡市の文化ということで、多くの方からご支援いただいておりますし、これは絶対に自信があります。
一部報道では私が「ブランドのただ乗りだ」と言っているように書かれていますが、そこの新聞社からは直接取材を受けていませんし、そんなことは言っていません。それならライセンス料やロイヤリティなどのお金を取れば良いのか、という話になりますから。お金の問題ではなく、博多の伝統を守るためなのです。
吉田氏は「職人の雇用が保たれる」と言っています。それ自体は良いことなのですが、原理原則が間違っているわけです。
【文・構成:大根田 康介】
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COMPANY INFORMATION
博多織工業組合
所在地:福岡市博多区博多駅南1-14-12
TEL:092-472-0761
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