<極度に落ち込んだパルコ>
開業から半年、JR博多シティは天神地区の商業施設にも影響を与えた。開業直後の3月は岩田屋三越も博多大丸も、売上げが対前年比で10%以上割り込んでいる。
ターゲットが共通するファッションビルはさらに深刻だ。とくに開業2年目に入った福岡パルコは、4月から7月までの売上げが対前年比で平均24%以上落ち込んでいる。
パルコにすれば、昨年が好調すぎたのかもしれないが、予算対比で2割も3割もアップしたわけではないだろうから、反動どころか完全にお客を持っていかれた格好である。
では、なぜパルコだけがこれほど影響を受けたのか。筆者が類推するところ、一つはハード面に原因がある。パルコは福岡進出こそ新しいが、建物は建築から70年以上を経過。フロアは狭く、天井高も低い。とても買い物環境が優れた器とは言いがたい。
もう一つはモチベーションの差だ。博多シティは新規開業ということでデベロッパーのテナントに対する指導、各テナントの店長や販売スタッフの意気込みが違う。ノウハウも実績もあるパルコであるがゆえ、どこかに油断や慢心があったのかもしれない。
ターゲットが共通する意味では、比較的ハードが整備されている天神地下街、ソラリアステージ、一部のブランドが競合するソラリアプラザや天神地下街についても、JR博多シティの影響は少なくないと思われる。
<天神の強さに翳り>
天神地区への影響は、もはやその強さが絶対的なものでなく、相対的なものになり始めたことを露呈する。
天神における消費行動は、平日は通勤通学の合間に必要な買い物をし、土日は天神にしかない商品やサービスを求めるもの。
しかし、福岡県下、隣県の郊外には大型ショッピングセンターが続々と誕生。さらに最近はインターネットでも気軽に買い物できるようになった。こちらも商圏を広域に拡大し、あらゆる消費者ニーズに対応しつつある。
こうした状況下に、鉄道という集客装置をもつ巨艦駅ビルが誕生したのだから、それまで日ごろ天神で買っていた商品が博多駅にあれば、JR利用客がこちらを利用するのは当然だ。
また、天神にしかない商品やサービスについても、ウォンツとしての広域集客は図れるが、マーケットはそれほど大きくないので、売上げ額は上がらない。
いくら岩田屋三越がオンリーブランドを揃えても、お客が必要としなければ売上げには結びつかない。 不況でお客は買い物にシビアになっているのだから、なおさらだ。 それが天神の強さが相対的という根拠である。
夏休みに入り、旅行客も増えている。ただ、県外客にとっては天神も博多駅も「福岡」という位置づけで、同じ消費地という感覚ではないだろうか。そうであれば、新しい商業施設にお客が流れるのは、ごく自然のことである。
【釼 英雄】
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