畜産王国と言われる宮崎県だが、昨年(2010年)4月から家畜伝染病口蹄疫の発生で大ダメ-ジを受けた。また、口蹄疫終息から1年が過ぎようとしていた矢先の8月10日、皮肉にも口蹄疫発症の届出を遅らせ、口蹄疫拡大の原因にもなったとも言われている、(株)安愚楽牧場が負債総額4,330億8,300万円(出資オ-ナ-分含む)で破綻したことが明らかになったことで、畜産県である宮崎県にも衝撃が走った。
<口蹄疫発症拡大の基を否定、裁判訴訟が続く>
昨年4月20日、児湯郡都農町の繁殖牛農家で口蹄疫感染した疑いのある牛3頭が見つかった。宮崎県では2000年以来、10年振りの発症。ところが、この約2週間前、すでに感染の疑いがある牛が発見されていたと関係者は話す。それは、700頭余りを飼育する安愚楽牧場第7牧場(児湯郡川南町)で口蹄疫症状のひとつである"よだれ"を大量に流す牛が発見された。当初はその牧場長らは「風邪だ」と無視、その間、胃腸薬やペニシリン接種で凌ごうとしていたようだが、そのうち1頭が死亡、その間150頭~200頭に同じような症状が見られた。この第7牧場から感染牛の報告があったが、確定したのは5月4日。安愚楽牧場は1カ月近くも牛が口蹄疫に感染していたことを隠していた等々...をより詳細に、地元ロ-カル誌が取り上げた。だが、安愚楽牧場は、これを全面否定し、裁判訴訟にまで発展した。なお、現在も訴訟は続いている。
たしかに、届出を遅らせたことで、安愚楽牧場の飼料配送車の往復でえびの市の預託農場にまで口蹄疫が飛び火、後には日向市、宮崎市、さらには県内最大の畜産地帯である都城市にまで口蹄疫が感染拡大に繋がった疑いが強い。また、その間上層部ではデ-タ改ざんなど隠ぺい工作が行なわれていたのではとの推察もされるなか、従業員には厳しいかん口令が引かれ、また従業員も他牧場への移動(入れ替え)が頻繁に行なわれるなど、情報漏れを防ぐ策が取られていたとも聞かれていた。
結果として、預託農家の分は解らないが、児湯地区12ヵ所の直営牧場の家畜1万5,000頭が殺処分による埋却処理の対象となった。
今年(11年)1月にまとめられた、検証委員会の報告書によれば、地元農場などのアンケ-トや現地のヒヤリング調査などを実施して、現在も続く裁判訴訟のなかで、国の疫学調査チ-ムの報告は、安愚楽牧場の直営農場(第7牧場から初発)の可能性を指摘した。だが、結果は1例目ではなく、第7例目に位置づけた。第7例目として「3月30日に風邪の症状を示す牛がいた」「4月8日には複数の牛に食欲不振が見られ9日から改善薬を一斉に投与」「4月18日から20日にかけて飼養牛全頭に抗生物質を投与」していたことなどが報告された。この結果、国の疫学調査チ-ムは4月8日と推測している。
これに対して、県検証委員会は、4月24日の段階で、多くの牛が発症していただけではなく、殺処分の4月26日には治癒している牛も相当数見られたことで、「かなり以前からウイルスが侵入し、口蹄疫を発症していた」と推測している。
(1)4月9日に同一棟の数十頭の牛に食欲不振改善薬を投与。(2)その後数日の内に症状が爆発的に感染。(3)発生初期の伝染力は弱かった―などから4月8日より前に口蹄疫の症状が出て、まん延していたとしている。国と県とは食い違いがあるが、今年3月、県は「家畜伝染病予防法違反の疑いがある」として、安愚楽牧場に対して厳重注意の文書指導を行なった。
同社の獣医師についても第7牧場には3月から4月にかけてまったく足を運ばず、家畜の症状を従業員から電話で聞き、投薬の指示をするなど、ズサンな経営の一面も見え隠れするなどしていた。
児湯地区の地元畜産業者は、「口蹄疫が拡大したのは安愚楽牧場が発症元」と口を揃えて話す。しかし、その確証は取れない。また、前述した国や県の検証委員会が検証した事実を認めながらも児湯郡川南町が提示した条件を無視、地元住民の了承を得ないまま児湯地区の12ヵ所の直営牧場を6月の再会を目論んでいた。だが、とくに問題となった発症が多かった児湯第7牧場周辺の住民から牧場再開反対が満場一致で決議された声明文が提出されていた。
声明文の内容は、地元の信用が大きく失墜していたことを告げている。そして児湯地区にある12カ所の牧場の再開はされないまま、安愚楽牧場は経営破綻し、頓挫した状態となっている。
【特別取材班(宮崎)】
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