今年(2011年)7月15日、構造計算書偽装問題で裁判中の、元サムシング代表で現協同組合建築構造調査機構理事長の仲盛昭二氏のもとに1通の書面が届いた。国土交通省から発行されたその書面には、「免許取消処分の取消しについて」という題名で次のように書かれている。
「平成21年6月19日付け国住指第1156号による免許取消処分については、最高裁判所判決において処分基準の適用関係を示さずになされた免許取消処分が行政手続法第14条第1項本文の定める理由提示の要件を欠き違法であるとされたことを踏まえて、その処分を取り消す」(一部抜粋)
「免許取消処分」問題および執行処分停止決定の過程については既報の通りだが、「このようなケースで国が処分取り消しというかたちで負けを認めるのは珍しい」(仲盛氏担当の安部光壱弁護士)という。
もともと国側の主張の根拠は、「構造計算書に一貫性がない→だから安全性が確認できず、不誠実な行為にあたる→だから建築基準法に違反しており一級建築士の免許をはく奪すべきだ」というロジックだった。たしかに、仲盛氏自身も構造計算書の一貫性の不備については部分的に認めている。しかし、姉歯秀次氏による偽装発覚当時は、悪意のない計算書の差し替え(小さなミスの修正など)はとくに珍しいものではなかったことは、すでに各方面で伝えられている。
「免許取消処分の取消し」の書面を出した直後の7月20日には、国交省九州地方整備局が仲盛氏に対し「聴聞通知書」を送付。そこでもやはり、「一貫性がない構造計算書で、20物件の安全性を確認できない」「一級建築士として不誠実だ」といったロジックを根拠として聴聞要請をしている。
しかし一方で、福岡県は問題とされた20物件のうち、すでに19物件に対しては第三者による明確な安全宣言が出されている。九地整が進める調査でも、「偽装あり=一貫性がない」と判断されているのは5物件、そのうち1件の安全性が認められていないが、これは仲盛氏によれば「福岡市が勝手に補強、というより補弱してしまった物件だ。もともと耐力に問題はない」という。
以上のように、「安全性が確認できない」という面に至っては、むしろ国と県との意見が"一貫性がない"状態に陥っているように見える。となれば、「不誠実」なのは原告・被告いったいどちらだろうか。世紀の悪法と言われた「改正建築基準法」の問題も含めて、改めて裁判の行方に注目したい。
【大根田 康介】
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