中国の建築バブルが世界の注目を集めています。いつ崩壊し、いつ頂上から落ちるかなどと懸念する声は絶えません。一方、中国政府が力強く経済を支えるから、余計な心配はいらないという楽観論もあります。はたして、今後どうなるのか―。現在、上海で最も高い「上海森ビル(上海環球金融中心)」の現状が、予測の元となるヒントを示しています。
高さ492メートルの上海森ビルは、日本の森ビル(株)(本社:東京都港区六本木、辻慎吾社長)が、2008年8月29日に竣工しました。同ビルは、地上101階と地下3階。地下2階から地上2階までは、駐車場と商業施設。3階から5階までは会議センターで、7階から77階までがオフィス。79階から93階までがホテル、94階から100階までが展望台となっています。
08年8月の記者会見で、上海森ビルのトップである同社取締役・森浩生氏は、自信満々でした。"世界金融磁場"を目指すことで、金融センターの機能を発揮しながら、世界のエリート人材と金融、文化、芸術情報をこの場で集め、新しい文化を生み出す、と―。
しかし、開業して間もなく、アメリカに端を発した世界金融危機に巻き込まれました。竣工当時、家賃は1日20人民元/m2で空室率は6割でした。その後、家賃は下がり続け、1日8人民元/m2に。それでも半分が空きでした。ようやく昨年(10年)になって7割の入居率を達成しましたが、結局、空室率が高く、小売に踏み切ることになったのです。
実際、昨年末から、小売の噂が上海市場で流れ始めました。当時、森ビル側は、マーケティング調査を実施していたと説明していました。本格的な発売は、今年(11年)の2月27日でしたが、1月28日にTOMSONグループが、2億6,700万人民元で72階フロアを買い取るという通告を出しました。TOMSONグループは、不動産開発をメインに、工業や観光業やホテルやゴルフなども営む大型企業グループです。
政府筋によると、TOMSONグループは、その交易を3月7日に登録していました。同じ日付に68階も売却されていますが、ふたつ合わせると5億3,800万人民元に達します。
さらに3月17日、新源国際ホールディングズが、2億6,200万人民元の対価で71階を入手しました。また、8月上旬に入り、森ビル側は、一気に3つのフロアを8億6,600万人民元で販売しました。これで9つのフロアが売れたことになります。
開業当初、森ビルは、金融業界へのテナント貸ししか考えていませんでした。しかし、厳しい市況に直面し、不動産業や保険業や食品業や鉄鋼業など、対象の会社は広がっていったのです。
小売において、森ビルは、『自社用のみ。転売・転貸禁止』と、契約しているといいます。ところが、新源国際ホールディングズは、半フロアにテナントを募集しているなどと、仲介業者に対する調査で明らかにしました。
こうした状況について、専門家は以下のように分析しています。
(1)森ビルは、建設にあたって、ローンだけで700億円を投入した。毎年の利子や運営費用や人件費などで、コストは少なくとも8億人民元が必要。しかし、年収が最多8億4,500.万人民元しかない。残り40年未満の運営期間中、部分売却で返済に充てることは合理的な選択肢のひとつと言える。
(2)森ビルが日本の不動産バブル崩壊を経験したことがあって、資金繰り面にある高いリスクを少しでも引き下げたいとの意図がありそうだ。
【劉 剛】
【劉 剛(りゅう ごう)氏 略歴】
1973年12月生まれ。中国上海出身。上海の大学を経て、96年に地元の人材派遣会社に入社。10年3月より福岡に常駐。11年8月から上海に帰国。趣味は読書。
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