サブプライムローン問題やリーマンショック以後、日本の対岸で起こった金融危機は、実体経済にまで波及している。東日本大震災の影響もあり、資金繰りに窮している中小零細企業は少なくないだろう。
金融危機真っ只中の当時、私は銀行に勤めていた。消費が低迷し、企業の売上高が落ち込むなかで、その目先の解決策を銀行融資に頼らざるを得ない企業は、多かった。このように、ある程度大型の設備投資や、資金繰りが逼迫した局面における運転資金の調達など、企業経営において最終的に破綻を回避する手段は「資金」であり、その調達先は銀行(信用金庫など含む)である。
企業は一般的に、経営戦略を策定している。営業戦略や財務戦略など、さまざまな種類があるなかにおいて、破綻を回避するための最終的なサポーターである金融機関に対して、なぜ「銀行取引戦略」を策定していないのだろうか。
私は銀行出身の経営コンサルタントとして、主に銀行融資を始めとした、企業における包括的な銀行取引を担当する役割を担っている。企業経営者は、みな口を揃えて同じことを言う。
「銀行の担当者を知らない」
「担当者がまったく、当社を訪問しない」
「サービスを知ろうとせず、工場を見ようともしない」
「昔の銀行の担当者とは、よく深夜まで、経営について議論したものだ」
一方で、経営者に接する機会と同じ頻度で、銀行員とも接する私にとって、銀行員はまた、みな口を揃えて同じことを言う。
「融資のノルマは膨大だ。金を貸したいが、貸せる企業が無い」
「融資を受ける時だけ一生懸命で、融資を受けたら銀行の敷居も跨がない経営者が多い」
「企業の実態が分からない。ビジネスモデルや商流は、どうなっているのか」
元銀行員として、そして現在、中小企業経営者の声を聴く経営コンサルタントとして、双方の葛藤が非常によく理解できる。銀行融資も、その審査は一部、システマティックに行なわれることもあるが、担当者は人間である。実務的にも、銀行の担当者が「この企業は絶対に救う。絶対に融資をする」と、心に決めた案件は、そう簡単に「謝絶」に至るものではない。
金融庁が推進する「リレーションシップバンキング」とは、「地域密着型金融」とも換言される。「金融機関が顧客との間で親密な関係を長く維持することにより、顧客に関する情報を蓄積し、この情報を基に貸出等の金融サービスの提供を行なうことで展開するビジネスモデルを指す」(2003年3月:金融審議会 金融分科会 第二部会報告書)とされている。担保や保証に依存しない融資を目指し、さらには顧客情報の蓄積による金融機関の「コンサルティング能力の発揮」を目指した考え方である。
銀行は、顧客情報の蓄積やコンサルティング能力を発揮することにより、企業の財務内容などの良化が可能となり、追加融資の大義名分を得る。企業としても、運転資金や設備投資などの資金調達が容易となる環境が醸成でき、誰もが損をしないビジネスモデルと考えられている。
一方で、先に述べた「企業経営者の声」と「銀行員の声」は、目指すべき理想と大きなギャップがあり、政策的に標榜されているリレーションシップバンキングの実現には、未だ大きな壁があると判断している。
中小企業は、銀行から興味を持ってもらえないより、興味を持たれたほうが良い。銀行の担当者から親身になってもらえないより、親身になってもらえたほうが良い。いざという際に、融資を受け易い環境が前提として醸成されていたほうが、良いに決まっている。
今後、本テーマでの連載記事の掲載により、中小企業経営者として策定すべき具体的な「銀行取引戦略」と、銀行担当者に振り向いてもらえるような自社のプロモーション(アピール)を、より実務に即した形で解説を行なっていく。
※記事へのご意見はこちら