<「国益」は死語に>
先月、三菱重工業と日立製作所の事業統合の話が浮上した。日立側は将来の経営統合も視野に入れていたらしいが、三菱重工の躊躇で頓挫した。
「基幹産業である電機と機械のそれぞれの最大手両社が統合しグローバル展開に挑むことで、日本の製造業が競争力を取り戻す転換点と成り得る」と期待していたので、とても残念だ。「国益」や「人材の適材適所」を考えれば、事業統合、経営統合するのが最善の道と思われたからである。
日本の国内大手電機メーカーの「ユデガエル」状態もまさに極まったというところである。
これと対照的なニュースが少し前に起こった。三洋電機・パナソニックが中国のハイアールへ白物家電事業を売却したことだ。国を跨ぐと気軽にこの種のM&Aが行なわれることは実に不思議だ。
最近は、政治の世界、経済の世界でも「国益」という文言は出てこない。折しも、先日は民主党代表選で新聞、雑誌をはじめマスコミが騒がしかったが、何と5人も候補者がいて、公約骨子に「国益」の言葉を載せている候補者は一人もいなかったのには驚いた。どこの国の政治を行なうつもりなのだろう。
<人材の宝庫は人材の墓場でもある>
日本の電機メーカーはすべて巨大だ。国内首位の日立は、連結ベースでは中規模都市に匹敵する39万人の従業員を保有し、日本企業の全業種中で長年トップの座にある。
日立に限らず、日本企業の連結従業員数で上位15社の内、実に9社が電機メーカーである。3位パナソニック、5位東芝、6位ソニー、9位富士通、12位日本電気、13位キャノン、15位デンソーで、この事実から日本の基幹産業であるということが分かる。
一方、視点を変えて、キャリアプランナーの目からみると、この電機業界の状況は人材の宝庫であり、同時に人材の墓場なのだ。
大学の就職人気企業ランキングからいうと、1970年代では理系のトップであった日立も、2000年代になるとたまに2位になったりするだけでベスト・テンがギリギリだ。しかしこの人気ランキングは、理系のきわめて優秀な学生にはまったく関係がないことは関係者の常識となっている。彼らは、このようなくだらないランキングなどにはまったく興味がなく、研究一筋でそのまま企業の中央研究所に教授推薦で入社していくからだ。そのなかからノーベル賞候補者も出てくる。
たしかに、痩せても枯れても、大手電機業界は間違いなく人材の宝庫といえる。ただし、これは入社時点での話にすぎない。入社時点では、特別な天才を除いて、その学生の才能はもちろん、将来の可能性を見抜く能力を人事担当者は持ち合わせていないからだ。そればかりか、ここ数年は、米(欧)国の影響で、「スペック」重視で、その主導権は担当事業部に握られており、人事部の出番が少ないのだ。では、「スペック」以外の採用基準はというと、相も変わらず、出身大学を基礎票に過去の実績に基づき、確率で採用している。
【富士山 太郎】
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<プロフィール>
富士山 太郎 (ふじやま たろう)
人材紹介、ヘッドハンティングのプロ。4,000名を超えるビジネスパーソンの面談経験を持つ。紹介する側(企業)と紹介される側(人材)双方の事情に詳しく、各業界に幅広い人脈を持つ。
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