次々と浮かび上がる原子力発電をめぐる『やらせ』の疑惑。注意すべきは、誰彼が悪いということではなく、『やらせ』があったという事実。これは福島第一原発事故にともなう『原発安全神話の崩壊』で自然発生した"現象"ではないか――。
6月26日、経済産業省主催による玄海原発の安全対策などに関する県民向け説明番組(以下、説明番組)がケーブルテレビ・インターネットで放映された。この5日前の21日、九州電力(株)の段上副社長(当時)、諸岡常務(当時)、大坪佐賀支店長(現:佐賀支社長)の3名は、段上氏、諸岡氏の退任あいさつのため、佐賀県知事公舎を訪れた。
この時の会談の内容が、後に大坪氏の手で「段上副社長・諸岡常務退任挨拶メモ」(以下、九電メモ)として書き起こされた。それが明るみとなり、九電が原発再開に関する賛成メールを説明番組に送るよう社員・関係会社に要請した『やらせメール問題』に、古川知事が関与(九電側に指示)していたとする疑惑が浮上した。
九電メモによると会談の時間は、午前8時50分から午前9時15分までの25分間。同メモには、「古川知事発言」として以下の内容が記されていた。詳細については、九電メモの画像(クリックで拡大)を参照。
(1) 26日の説明番組の開催と経済産業大臣の来県予定。
(2) IAEAに対する国の姿勢についての所見。
(3) 説明番組の県民代表者の予定(商工会議所専務理事)および反対派の人選が困難なこと。
(4) 同番組に長崎大学の放射線医学の専門家に同席してもらうことを考えていること。
(5) 自民党系県議に対しての働きかけを指示者にお願いすることと、説明番組に対し、発電再開容認の立場からネットを通じて意見や質問を出すこと。
(6) 原発再開において危惧される国サイドのリスクは菅総理の言動。
とくに問題とされたのは古川知事の『やらせ』指示疑惑の元となった(5)で、(1)、(4)などについても、説明番組制作自体への古川知事の関与をにおわせる。
古川知事は8月9日、佐賀県議会 原子力安全対策等特別委員会で説明を求められ、とくに問題とされた点については「主旨やニュアンスが違う」などと、ほぼ全面否定。同月23日の同特別委で参考人として説明を求められた九電サイド・大坪氏も会談時に「ほとんど記録していなかった」として、「記憶違い」「聞き誤り」「自分の想いが入ってしまった」などと古川知事の説明に沿った答弁を行なった。
しかし、九電が『やらせ』問題などの調査を委託した外部有識者による第三者委員会は、実際は会談時に記録されていたメモと照合した結果、知事発言が『やらせ』の発端であるとの中間報告をあげた。これについては、古川知事、九電がともに反論。何とも言えない状況に陥っている。
しかしながら、最も危惧すべきは、当事者以外のところでも同問題について、「誰が、彼が」という点ばかりが強調され、原発の安全説明において、なぜ『やらせ』の必要があったのか、との点があまり議論されていないことである。そもそも、どっちだろうと『やらせのメカニズム』は機能していたのではなかろうか――。
調査報道サイト「HUNTER」が次々と明るみにしている古川知事と九電、佐賀県マスコミの蜜月関係は、この関係そのものが『やらせ』の温床であったことを物語っている。それこそが、日本における原発の誕生以来、麻薬(金)や情報操作(やらせ)で国民をごまかし続けて築きあげた『原発安全神話』の正体であり、問題とすべき部分だと考える。
【山下 康太】
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