<陸上自衛隊の定数問題と自己完結能力>
陸上自衛隊は、民主党政権の国家公務員総人件費削減のなか、昨年(2010年)12月に決定された「防衛計画の大綱」では、定数が15万4,000人と定められた。
英国のミリタリーバランスによれば、陸上自衛隊は世界の主要諸国の陸軍と比較した場合、人口に占める隊員の比率が非常に低い水準にあることがわかる。陸上自衛隊の隊員ひとりが受け持つ国民の数は901人。それに対してフランス陸軍は458人、ドイツ陸軍は513人、イギリス陸軍は610人となっている。
これらの数字を見れば、陸上自衛隊の定数が突出しているわけではなく、逆に少ないことが一目瞭然であり、東日本大震災と同じ規模の災害や外敵の侵攻が同時に2カ所以上で発生した場合には、機動的な兵力の投入は難しくなる。
また近年、自衛隊は民間で代替できるものに関しては、アウトソーシング化を積極的に進めてきた。とくに東日本大震災で大きな被害を受けた東北地方の陸上自衛隊の駐屯地では、他の地域に先駆けて駐屯地の給食業務をアウトソーシング化して、民間業者に委託してきた。
そのため、東日本大震災によって給食業務を委託している民間業者が被災すると、給食業務が一時的にストップするという事態に陥ってしまったのである。
給食業務をアウトソーシング化したということは、大東亜戦争時の兵站(ロジスティクス)軽視と同じであり、歴史の教訓を学ばない愚かな政策と言えるだろう。
軍隊(自衛隊)は自己完結能力を備えた組織でなければならない。自衛隊の給食業務がストップしたということは、自衛隊が軍隊組織として機能不全に陥ったことを意味しているのだ。
<専守防衛では大規模災害にも対応出来ない>
日本国憲法第9条の政府解釈のため、日本政府は水陸両用作戦に使用される強襲揚陸艦は「攻撃的兵器」だとして導入を認めてこなかった。この憲法解釈は専守防衛の考え方ともイコールだ。
しかし、四方を海に囲まれ、東日本大震災のような震災や、火山の噴火、台風などの災害に定期的に見舞われる我が国に、水陸両用作戦に使用される強襲揚陸艦は、国民を守る上でも必要な艦船のひとつである。
東日本大震災では、被災地への道路が地震により破壊され、当初、車両での進入が制限されるなか、米軍を始めとした諸外国海軍が保有している強襲揚陸艦や、それに類する艦船などがあれば、海上から被災地へ上陸することが可能となり、負傷者の救助や、救援活動が速やかに行なわれていたに違いない。我が国では馴染みが薄いヘリを搭載した病院船なども有効である。
米軍は日本が「攻撃的兵器」と見なしている攻撃型空母や強襲揚陸艦を東日本大震災の被災地に派遣して支援活動を行なった。天災も有事であり、東日本大震災では「攻撃的兵器」が時と場合によっては、国民の命を守る上で有効な兵器(防御的兵器)であることが証明された。
本来、「攻撃的兵器」と「防御的兵器」の区別などあるわけがなく、日本でしか通用しない素人的発想とも言える専守防衛の考え方を排して、国民のための自衛隊に変えていくべきではないだろうか。
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<プロフィール>
濱口 和久 (はまぐち かずひさ)
昭和43年熊本県菊池市生まれ。防衛大学校材料物性工学科卒業。陸上自衛隊、舛添政治経済研究所、民主党本部幹事長室副部長、栃木市首席政策監などを経て、現在、テイケイ株式会社常務取締役、日本政策研究センター研究員、日本文化チャンネル桜「防人の道 今日の自衛隊」キャスターを務める。平成16年3月に竹島に本籍を移す。『思城居(おもしろい)』(東京コラボ)、『祖国を誇りに思う心』(ハーベスト出版)などの著書のほかに、領土問題や日本の城郭についての論文多数。
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