松尾 話が前後しますが、内需主導型経済では勝ち組が一部、負け組がほとんどの世のなかになってしまうことが目に見えています。今一度、日本国のスタンスを見直してほしいのですが、日本はもともと『加工貿易の国』なんです。やはり外貨をいかにして稼ぐかというところに視点を持っていかなければならないのに、内部競争をして限られたGDPのなかでシェアを争う状態になってはいけない。もう一度、この国のあり方を考え直して、加工貿易というのは技術だけじゃないですか。
たとえば選択肢としては、技術大国、生産大国、商業大国、金融大国、文化産業大国、観光大国、福祉大国など、さまざまなビジョンがあります。日本は技術大国であったわけで、生産大国は今や、お隣の中国、韓国に世界シェアを取られそうな状態です。そのような経済危機的な情勢にあっても日本のビジョンは定まっていません。
まず、中央集権が続く現在においては、国家が定めないといけない。たとえば、日本が誇るアニメ文化、ファッション、音楽は世界でもトップレベルです。今やアメリカのCMよりも日本のほうが高い評価を受けています。そういう現状をふまえて、まず、国のスタンスをどこに持って行くかを決める。それから教育の見直しです。
かつて私は、在外国の日本人の方から「日本は技術者だけをつくる教育しかしていない」と言われたことがあります。そのときに私も疑問を持ちました。たくさんの業種があるなかで工業系ばかりを発展させ、結局、円高で世界中から追い込まれ、安い"元"のほうへ流れていき、中国が世界の工場となった。それでもまだ、技術ばかりを強調する教育体系でいいのでしょうか。
やはり今は、フィンランドの教育のように、ゼロベースからマーケティングを行なえる第一人者、金融・保険業務の第一人者、つまり新たな投資商品や債権などを一から生み出せるようなプロフェッショナルに将来の子どもたちを育てて行く。それは旧工業国だった、今の先進諸国どこもが通ってきた道なのです。日本だけがいまだに投資や先物取引などは不労就業的な観点で見られているのが理不尽で、残念な思いです。
銀行も規制だらけ、保険も規制だらけ、証券会社、金などの先物取引もそうですが、それをひとつの手段に持っていけないかと思います。イギリスは産業革命の国ですから、収入の第1シェアが工業製品だった。それが、経済成長して行き「ゆりかごから墓場まで」の福祉大国となった。しかし、かのサッチャー政権下で思い切った経済改革、財政改革を行ない金融大国のビジョンに方針転換しました。それを日本はひとつの参考にすべきではないかと思います。
濱口 結局、日本の場合は投資、株式、金融を教えることが異様にタブーになっています。日本では株式投資や金融を教えることが「悪」だというイメージが先行しています。ほとんどの日本人が決算書を読めない。株式や金融の仕組みを学校の授業で、小学校のときから教えていくことは、社会に出たうえで必要な知識です。
それに「ものづくり」について言うと、日本は、家電や自動車など、いろんなメーカーが多すぎます。今後、日本が「ものづくり」で生きていこうと思うなら、何社かに統合していかなければ、価格が安い海外のメーカーと競争できません。
松尾 ただし、ベンチャー企業は別です。たとえば宗像市にあるロボット会社のテムザックは、「番竜」という留守番ロボットで有名になった会社です。実はその技術がデンマークの誘致を受けて、海外にその技術や特許などの権利が取られそうになっています。それは、日本の政府にベンチャー企業を育成しようという意識が低いためです。
韓国のサムソングループのような巨大企業をつくることもひとつの手かもしれません。しかし、今から九州を独立国家構想に持っていくのであれば、地元にある独自性のある優秀な産業を活かしていかない手はありません。
そのためには地方行政に国の権限を委譲していただかないとならない。地場の新産業となりうるベンチャー企業を支援しやすい環境整備や支援をしてやれる為の権限が必要です。そして、助成金を活用していただき生産体制をつくっていく。そういうことを考えていきたいと思います。テムザックのロボットは、世界に誇れる特許技術のひとつですから。
―松尾県議のお話にもありましたが、九州の規模からいえば、テムザックを九州で応援することは可能ですよね。
松尾 そうです。さらに、そうすれば今後、第2、第3のテムザックができてくる。そのメーカーを育てていけば、世界一のロボット大国となることも可能だと思います。
これからは地方に権限を与えて、独自に規制緩和ができるように持っていかなければいけない。既成のものを打ち破っていかなければ、今の閉塞感は打破できません。しかし、県にも市町村にも支援していけるだけの権限や財源が今はありません。今や日本国内の狭い商圏シェアのなかで、しのぎを削り合って互いに先細りになりつつある時代に入っています。
濱口 ただし、注意しなければならないのは、地方分権と地方主権は違うということです。地方に主権を与えればとんでもないことになる。天気予報でも「日本全国」という言葉を使いますが、歴史をさかのぼれば、戦国時代は熊本県を「肥後国」などといっていました。その後、江戸時代は、幕府の中央集権体制に見えますが、実際のところ、藩ごとに分かれた地方分権でした。藩独自の教育や経済の政策を行なっていました。
決して日本に地方分権の経験がないわけではない。むしろ、中央集権は、明治維新以降からたかだか150年ほどの期間しかないわけです。
―もともと日本の考え方は地方分権だった。
松尾 高度な情報化、多機能社会に入ってきた今、それを行政に反映させるには、あまりにもスピード感がなさすぎます。個々の価値観に対応するための行政が行なわれていないことが不平・不満となり、政治不信にもつながっていると思います。今の時代、個々の力、知識レベル、技術レベルが高まり、それらを経済産業省ひとつが対応しようとしても何年もかかるわけです。だからベンチャーが育たない。国防や外交以外は地方に受け渡していかねばなりません。今こそ「平成の廃県置藩」といえる地方分権を行なうべきです。
【文・構成:山下 康太】
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