自社に興味を持ってもらい、銀行(担当者)から振り向いてもらうためには、具体的な行動を起こさなければならない。接待や贈答品による心象形成の良化が図られる時代は、もう終わったのである。
銀行員が知りたい情報―それはまず、企業の決算書である。決算期を迎え、2ヵ月が経過した頃に、銀行員が決算書を受取りに来るのは、そのためである。決算書に基づき、様々な財務分析を行なわなければならず、決算書に基づく財務分析の完了には、期限があるからだ。その際、決算書・勘定科目明細などをコピーして渡すだけでは、自社の財務内容を、自社の知らないところで分析され、評価されてしまう。
決算書提出時、決算の分析レポートを作成し、決算書と同時に提出することを推奨する。銀行員の財務分析ポイントは本シリーズの後述に委ねるが、自社の財務内容を自社が把握していないことは避けるべきであり、また評価して欲しいポイントは、レポート内で明確に訴えるべきである。利益が十分に計上されていれば、レポートも書きやすいことだろう。
しかし、「良い決算」は誰が評価しても「良い評価」ができ上がる。赤字計上が続き、繰越欠損や債務超過を内包しているからこそ、決算レポートにより、悪い評価を避けるような疎明(説明)を行なうことが求められる。
決算に基づく財務分析は、あくまで「過去一年間」の財務分析である。今後、どのように自社の売上や利益が推移する予定なのかを、別途示す必要がある。決算書内に作成されている「損益計算書」は、過去一年間の売上と経費、利益を示したものであるが、未来の「予算損益計算書」を作成することを、強く推奨する。なお、
予算損益計算書の書式は、アジア太平洋マネジメントのウェブサイトにて、無料配布中である。
エクセルにより、A3判の用紙にて、過去2~3期分の損益計算書の数字を転記する。科目も、製造(売上)原価や一般管理費など、そのすべてを記載し、過去の実績値を並べる。これにより、過去数期に渡る売上高の増減トレンドや、利益水準の推移が明らかとなる。売上・利益共に増加のトレンドを辿っているのであれば、その増加傾向をどう維持するのかを示す必要がある。売上・利益共に減少傾向であれば、どう回復させるのかを、予算の損益計算書のなかで、数値を以て示す必要がある。
この予算損益計算書は、手慣れた人間であれば、すぐに作成することができる。作成自体にさほど意味はなく、本質的な議論は、作成された数値計画が、計画通りに進捗(進行)していっているのか、といったフィードバック作業である。
月に一度、試算表とレポートを作成し、取引銀行宛に、報告に行くべきである。数値計画通りに推移していれば問題が無いと判断され、数値計画を下回っていれば、どのようにして当初の計画にキャッチアップするのかを、示すべきである。
融資を行なっている以上、銀行員が融資先の業績が気になることは、当然である。その銀行員の気持ちに応えることで、少なくとも興味関心を持ってもらい、企業と銀行との間の情報量の差を縮めることで、銀行のコンサルティング機能はより発揮されやすい環境が生まれる。
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