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「郵政株」が復興財源に浮上、その背後にある連立与党内の暗闘(後)
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2011年9月21日 07:00
2011年9月15日
副島国家戦略研究所 中田 安彦

 国民新党といえば、もともと小泉政権時代に郵政民営化法案の反対がきっかけで結党された経緯があり、郵政民営化法反対の先頭にたっていた亀井代表がまっさきに「郵政株の売却」を復興財源の選択肢のひとつとして挙げるのには、どこか違和感がある。

 そこで、亀井代表の発言をよく読むと、「郵政改革法案の成立による政府の保有株式の売却」と、言っていることに気づく。これが重要だ。小泉政権時代に成立した郵政民営化法は、「2017年までに日本郵政が保有するゆうちょ銀行とかんぽ保険の株式は全株売却する」と、規定していた。

 これに対抗して、民主党と国民新党が提案して、09年12月に成立させたのが「株式売却凍結法」である。この法律では、政府は、「別に法律で定める日までの間、その保有する日本郵政株式会社の株式を処分してはならない」と規定しており、これはゆうちょ・かんぽ保険会社についても同じである。この凍結法の廃止の条件として、国民新党が強く成立を求めてきた「郵政改革法」がある。(法案:http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g17605001.htm

 郵政改革法というのは、民営化法の施行の結果、分社化により実際の業務上に生じた様々なトラブルを是正するための法律である。国民新党のウェブサイトによると、自民党政権時代の05年に成立した郵政民営化法の最大の問題は5分社化体制にある。

郵政省 民営化法では郵政事業は、「日本郵政(持ち株会社)、郵便事業会社、郵便局会社、ゆうちょ銀行、かんぽ保険会社」の5社に分割されている。郵便事業会社と郵便局会社が分離されていることで、提供するサービスの質が著しく低下している上に、金融2社の業務を郵便事業会社が扱えないという状態が続いている。そのため、郵政事業の強みだった「三事業一体運営」が行なえなくなっている。そのために貯金額保険契約数も低下の一途をたどっている。

 さらにもっと重要なのは、政府の株式保有割合に関する規定だ。ここで新しい改革法案は、従来の民営化法と大きく異なる。いずれの法律でも、持株会社に関しては、政府は常時、株式を3分の1超保有する。ただし、民営化法では17年までに「ゆうちょ・かんぽ」の2社の株式は、完全売却する。ところが、新しい改革法案では持ち株会社である日本郵政が金融2社の株式も「議決権の3分の1超」の分を保有し続けることになっているのだ。これにより、経営の一体化が実現できるように法案が書かれている、というわけだ。

 だから、ここに来て亀井代表が郵政株の売却を復興財源の一部に充てることを容認する発言を行なっている背景には、この郵政改革法を何とか成立させたいという意図がある。国民新党は菅政権の時代に他の法案の審議を優先した関係で数度にわたり改革法案の継続審議の憂き目を見てきた。国民新党は郵政改革を最大の目的としている政党であるから、この法案が通らないことにはその存在意義が問われてしまう結果になりかねない。だから、野田首相に対して「郵政株の一部売却容認」をちらつかせることで、次の臨時国会での早期の審議を促したいのだろう。
 ただ、政府が全株保有する日本郵政の株式の簿価合計は9.6兆円。これとは別にゆうちょ・かんぽの会社の株式がある。この改革法案が成立すれば理屈上は、最大で3分の2弱の株式売却が可能となり、売却益は6兆円規模に上るという。ただ、どのような形で売却するかも決まっておらず、一度に3分の2すべてを売却することは不可能だろう。亀井代表の真意は「早く郵政改革法を何とかしろ」というものだろう。

 現在、国会には改革法案と株式売却凍結法の廃止法案の二本が提出されている。改革法案が通らずに凍結法の廃止法案だけが成立してしまうことが連立与党のパートナーである国民新党にとっては一番いやな状況だろう。だから、川端達夫総務大臣が、改革法案の成立の見通しが立たない状態では郵政株の売却は「議論のテーブルにのらない」(毎日新聞、12日)と答えているのである。一部に株式売却の凍結法を先行して廃止する案も浮上していることへのけん制であり、亀井代表の意向が反映されていると思われる。

 そのようにして、復興増税に関しては歳出削減や政府資産の売却を行なうことで、増税幅をできるだけ縮小することで、政府は国民の理解を得ようとしている。

 ただし、財務省の本当の狙いは、あくまで時限的な措置である個人の所得税や法人税による復興増税ではない。この復興増税の実施をテコに、やがて議論される「税と社会保障の一体改革」のもとでの消費税増税をスムーズに進めることが彼らの真のねらいである。いわば「復興増税は消費増税の一里塚」である。

 政府がここまで増税にこだわるのは、IMF(国際通貨基金)やOECD(経済協力開発機構)が「財政再建のためにデフレの完全な脱却を待つのは賢明ではない」と消費増税を優先させる路線を取っているからだろう。IMFは、「増税で一時的に消費が落ち込むものの財政への信認が高まり、経済成長の落ち込みはすぐに相殺できる」という仮定のもとに日本に行動を促している。(日経、10日)

 しかし、この仮定は極めて楽観的にすぎる。阪神大震災の数年後に消費税を増税した日本ではデフレが深刻化している。

 本当は増税をするよりも思い切った巨額の財政出動を行なうべきだ。復興事業によって再建されるインフラ施設からは次の世代の国民も当然に恩恵を受けるのだから、復興のコストは建設国債で賄えばいい。償還期限は建設国債の60年がひとつのめどになるという考えには説得力がある。償還期間が長いほどそれぞれの世代の負担が薄くなるからである。

 ただ、先進国を中心に緊縮財政が基調になっているなか、日本だけに抜け駆けさせる訳にはいかないという思惑があるのだろう。IMFやOECDには日本の財務省高官が出向しており、彼らが議論を誘導しているようだ。

 劇的な民主党への政権交代からはや2年。マニフェストの精神である政治家による官僚主導体制の打破という大目標は、もろくも崩れ去った。

 被災地である岩手県では11日に県知事選と県議選が行なわれた。震災直後だから選挙はできないという口実はもう通用しなくなった。震災復興からどのように日本を再生させるかという大きなテーマで国民の信を問うべき時期が来ているのかもしれない。

(了)

≪ (前) 

<プロフィール>
中田 安彦 氏中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。


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