ガソリン価格に見られるように原油価格が高止まりする状況下、「中小企業に対する銀行などからの金融デリバティブ商品の勧誘が盛んだ」という話を聞く。デリバティブとは原資産の相場を指標化し、将来的にその価値の損益を交換する取引のこと。単なる利殖にとどまらず、事業上のリスクヘッジの意味合いからも重要な役割を果たす。
ただし、近年トラブルが続発している事実も見逃せない。実際に福岡では、三井住友銀行が地元中小企業と交わした「金利スワップ契約(プレーン・バニラ・金利スワップ取引)」においてトラブルが表面化。本件に関し、福岡高裁は今年4月、中小企業側の逆転勝訴の判決を下している。
判決文によると、本件契約は『被控訴人銀行に一方的に有利で控訴人会社に事実上一方的に不利益をもたらす内容』のものであり、『到底、その契約内容が社会経済上の観点において客観的に正当ないし合理性を有するものとは言えない』として、銀行側を強く非難。契約そのものが無効との判断を下した。
金利スワップ商品は構成こそ単純だが、諸々の条件が付くだけに複雑に見えるもの。そこを悪用して銀行側が暴利をむさぼるケースが少なからずあったことになる。この判決も、「中小企業の銀行によるデリバティブ被害に関して先例的意義を持つ」重要判決と関係者間で評されており、同様の状況におかれている中小企業にとっては朗報と言えよう。
あるコンサルタントは、「このような落とし穴を避けるには金融商品を購入する目的を明確かつ具体的に定めることが有効だ」という。当然ながら、想定通りのリターンが得られるわけではないが、目的意識が明確であれば必要となる情報も自ずと具体的になる。結果、銀行や証券会社とのやりとりにもメリハリが出て、リスクを回避しやすいとのことだ。
企業経営上、銀行との「お付き合い」は重要である反面、被るリスクとのバランスを考える際にも、上記の事例は参考になるのではないだろうか。
【田口 芳州】
*記事へのご意見はこちら
※記事へのご意見はこちら