<原発推進派が大勝した上関町>
25日、中国電力が原発建設計画を進める山口県上関町で任期満了に伴う町長選の投開票が行なわれた。計画推進派で現職の柏原茂海氏(62)が脱原発を掲げる新人の大戸貞夫氏(61)を大差で破り3選を果たした。福島第一原発の事故以降、全国が注目するなか原発の新規計画の是非が問われる町長選だったが、依然、根強く残る原発マネーへの依存心が危機感よりも勝ったかたちといえよう。
同町は瀬戸内海に面する静かな漁港を有する小さな町である。産業は農林や水産業など第一次産業が主体で人口は3,537人、世帯数は1,872世帯(2011年8月1日現在)となっている。実際、8月末の取材時には、原発推進の立て看板がやたら目に付く。とくに同町の原発推進姿勢を色濃く反映するのはテレビなどでも紹介されていた「原電を妨害する人は上関町に来ないで」の立て看板である。
島と海にほぼ囲まれ、目ぼしい産業がこれとない同町にとって原発マネーは願ってもない財源。集落には老人が目立ち過疎も進んでいる状況にあることから、新しい産業は期待できないだろう。「老人ばかりですよ。なにもないところだから原発は来てもらわなければなりません」と、取材に応じた老婆は語る。現状は少し変化しつつも財源は欲しいが放射能は心配との声も聞かれたが、住民の意思は推進派の首長を選び、逆風のなか原発推進へ舵を切った。
<長きにわたるプロジェクトを推進~直島>
一方、上関町と同じく瀬戸内海に位置する香川県直島は、人口約3,300人ほどの小さな島である。にも関わらず、同島の名前は国内外に広く知れわたっており、毎年多くの観光客が訪れている。世界的な旅行誌「Traveler」では世界の名立たる都市に並び「次に行くべき世界の7カ所」のひとつに挙げられているほか、「007シリーズ」の小説の舞台としても登場。昨年7月から開催された「瀬戸内国際芸術祭」では期間中約30万人もの観光客が同島を訪れるなど、小さな島であっても多くの人を惹き付けてやまない魅力がある。
この島の魅力を語るうえで、外すことのできないキーワードは「現代アート」である。同島では(株)ベネッセHDと(財)直島福武美術館財団を主体としたさまざまな現代アート活動が展開されており、島内各所にアート施設が点在している。この現代アートの下支えをしているのが、1959年から9期36年にわたって直島町長を務めた故・三宅親連(ちかつぐ)氏によって編成された「1960年度当初予算大綱説明」によるまちづくりプロジェクトである。約半世紀前に策定されたこのプロジェクトは、島内を3つのエリアに分けてそれぞれを特色ある活用をしようというもので、これを下地としてベネッセHDによる現代アート活動が展開。その後、地域住民の間にも次第にアートへの意識が定着し、現在の直島へと至っている。行政の首長のブレない強力な想いが、企業、住民を巻き込んで一体化しているという、稀有な成功例だと言えよう。
<行政の独自色>
上関町と直島。同じ瀬戸内海に属する地方自治体であるが、片方は潤沢な財源を確保するために何が何でも原発推進に邁進しており、もう片方は、何もないところから知恵をしぼり住民とともに地域活性化を推進している。まさに行政の方向性がまったく異なる自治体らで首長の意思が色濃く現れ、それに住民の意識に反映されているのが良くわかる。小さい町ゆえに首長の決断は反映しやすい。その首長に将来をゆだねるのは住民の一人ひとりの意識で成り立つものと思ってもよいだろう。
【道山 憲一】
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