常時、ショッピングセンターがターゲットとする客層に向けて、適切なマーチャンダイジングを行なっていくことは簡単ではない。
いいショッピングセンターは、常にテナント店舗の動向を把握し、ターゲットにあわないと感じれば品揃え指導をし、時には退店を促すこともある。このような地道な新陳代謝をしていかないと、オープン当初は鮮やかだった印象も、いつの間にか古めかしく陳腐なものになってしまうのである。
また時には、意図的にターゲット層を転換することも必要である。
天神コアはまさにその事例である。当初は、現在よりももう少し対象年齢層は高かったのだが、天神地区の流通戦争が過酷なものになるにつれ、ターゲットを絞り込んで10代の女の子に集中特化することで生き残りを企図したのである。
このように、ショッピングセンターの運営の要諦がリーシングにあるのは、単に装置産業として高い稼働率を維持することが必要だからではない。
むしろ、小売業の集合体としての魅力を維持するためにこそ、リーシングが重要になるのである。
ところが、ショッピングセンターを運営するデベロッパーがひとたび資金繰りに追われると、たちまち、マーチャンダイジングの観念など消し飛んでしまい、とにもかくにも空きスペースに何かのテナントを入れることで収入を確保したい、という動機が先行する。
こうなるとターゲットに合わせた品揃えは期待薄にならざるを得ない。
かわって万人向けの価格破壊型のテナントが入ってくるかもしれない。天神コアにしまむらが入居している状況を想像してみてほしい。10代の女の子に特化したファッションビルというブランドイメージは、たちまち失われてしまうだろう。
それでは、テナントと極力長期の賃貸借契約を締結し、店舗の固定化を図ることでイメージがぶれないようにしたらどうだろうか。
残念ながら、この戦略も失敗する。
なぜなら、テナントとして入居するアパレル企業にも栄枯盛衰があるからだ。なかには倒産するところもあるだろうし、特定のターゲットを対象とするブランドから撤退することもありうる。だから、テナントを固定化する、というのも現実的ではない。
ショッピングセンターを運営するもっとも現実的な方針は、テナント・ブランドとも常に流動するものと捉え、これを前提に一定のターゲットを定めてのマーチャンダイジング計画を持ち、これに沿ってリーシングを続ける、というものである。いったん全テナントが入居したから、リーシングは終わり、ということではないのだ。そして、マーケットの動向に合わせて数年に一度は、マーチャンダイジング全体についての軌道修正をすることも重要である。
このようにショッピングセンターは、不動産賃貸業としての側面と小売業としての側面を併せ持っている。
さらに、ショッピングセンターのテナントリーシングには終わりがなく、常にテナントを新陳代謝していくことでその魅力を維持し続けることが求められる、ということである。
【石川 健一】
<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)
東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。
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