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トリアス久山物語『夢の始終』(36)~新陳代謝が停止するとき
経済小説
2011年9月28日 07:00

<新陳代謝が停止するとき>

 ちなみに、福岡市の渡辺通にあるサンセルコは、ショッピングセンターの店舗が固定化するとどうなるか、ということを理解できる貴重なケーススタディである。

 ここは、福岡市が実施した一連の都市再開発のひとつとして実施された再開発案件である。
 約6,600坪の雑然とした低層の店舗兼住宅からなる商店街を建て替えて、ホテルニューオータニやテレビ局を誘致しつつ、ショッピングセンターゾーンには、既存の地権者たる商店主が入居した。つまりここではショッピングセンターと言いながらも、店舗区画が各店主の所有になっているのである。

 その結果、どういうことが起こるのか。
 1979年に鳴り物入りでオープンしたときには、サンセルコはニューオータニとテレビ局の出店もあって、広場ではミニコンサートやイベントが行われる人気スポットであった。が、オープンから30年が経過した今、その様子はどうだろうか。

 サンセルコの商店街は、ニューオータニのショッピングゾーンともつながっており、白い建物は一見今もきれいで魅力を保っているように見える。

 ところが店内に入ってみるとどうだろう。

シャッター通りの雰囲気が強烈すぎて... 営業しているのは、30年前の商店街そのままの衣料品店などである。
 否、30年前には周辺に若者もいたし、郊外型のショッピングモールなどなかったので、サンセルコの衣料品店も若者向けの商品を扱っていた。しかし、下町から若者が去ってゆき、ファミリー層の生活圏が郊外に移った結果、サンセルコ内の店舗は近隣のお年寄りにターゲットを絞るようになった。
 この結果、店内はかび臭い匂いとレトロ感が漂い、日曜でもほとんど人影がなく、1階というのに営業をやめたまま放置される区画もあったりして、まるで地方都市のシャッター通りのようである。

 それもそのはず、サンセルコ内に出店している店舗は、もとが商店街の地権者で、ほとんどが区画の区分所有権を持っているのである。
 それもローンなど組まず、もとの店舗兼自宅の所有権が変換されて無償で所有権を手に入れているため、月々の支払は管理費や修繕積立金くらいでローンも家賃の支払もない。

 もしサンセルコ内のある店が、「このままではいかん」と考えて商売のターゲットを変更しようと思ったらどうなるだろうか。
 たとえば高所得のシニアをターゲットとしたプレミアム感のある店舗に転換を図ろうと考え、店舗内装デザイナーに高い報酬を支払って改装したとしよう。しかし、サンセルコのなかのわずか1店舗がこうして前向きのチャレンジをしたとしても、サンセルコ自体が放つシャッター通りの雰囲気が強烈すぎて誰も近づかないだろう。よって、この奇特な店主のチャレンジは失敗に終わる。

 それでは、別の店主が、サンセルコから撤退して、イムズビルやBIVI福岡に移転しようとしたらどうなるだろう。
 自店も周囲の店舗も、区画を所有しているので、簡単に退店することもできない。自店の区分所有権を売却して、他の新しいショッピングセンターに出店しようにも、このようなシャッター通り風の物件となってしまっては満足な値段での買い手もつかない。そうなれば、新規出店を実行するための資金を調達できない。
 まさに八方塞がりなのである。

 こうなると、せっかく店舗の建て直しを図ろうとした商店主も、あきらめざるをえない。
 あきらめてしまえば話は早い。幸いに店舗は所有権なので家賃の支払はない。と、いうことは追加投資はやめて、これまでどおりの商売を続け、追加投資は一切ストップし、細々と一家の生計を保つ程度の売上を稼げばいいのである。もちろん、それではジリ貧となるだけだが。
 こうして、テナントの新陳代謝のないショッピングセンターは死んでいくのである。

 話がそれたが、平山がいなくなったトリアスには、このようなショッピングセンターの運営に精通したプロがいなかった。

 にもかかわらず、トリアスは平山が抜けた後も、当初より株主であったヤマックスと宅島建設の関連会社として商業施設の運営を継続することとなった。
 リーシングは振るわず、空き区画を無理に埋めようとして低ランクの店が入り、そうなることでまたイメージが落ちて来店が減る、とく悪循環に囚われ、景気後退の影響も受け。結果として売上高に連動する賃貸収入は見る見る下がっていった。

(つづく)

【石川 健一】

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<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)

東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。


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