世界の工場から世界の市場へと変貌をとげつつある中国。こうした環境下で、みごとに中国と中国人の特性を理解し、利用して世界に羽ばたこうとしている企業が台湾にある。それはLED照明を手がける「リップテックリミテッド」という会社だ。同社は台湾に本拠地を置き、中国本土にも工場がある。
震災後、日本では節電の機運が高まり、日本各地で街頭照明灯のLED化が進められている。こうしたなか、リップテック社も大阪府の街頭照明灯LED化のコンペに参加、実証実験の結果、大手を含め約20社のコンペのなかから、東芝とともに同社のLED照明灯が採用されることとなった。現在は神戸市でも実証実験を行なっているという。
このように、LED関連で高い技術を有する同社の総経理(社長)を務めるのは、元NECのエンジニアであった上木戸(うえきど)耕三氏。20数年前のNEC在籍時から香港、中国を担当し、中国事情に精通している。その上で、木戸氏は「当社は中国と台湾に工場を持っているが、販売は台湾本社から主に日本や東南アジアに出荷している。中国で当社の製品はほとんど売っていない。当社の技術製品は中国にはまだ早いと思っている」という。
それは何故か。「技術移転の問題」が一番大きいようだ。リップテック社では、コアの部分は台湾の工場で生産し、中国の工場では簡単な部品しか製造していないという。同氏によれば、「管理体制が十分にとれる大手であれば別だが、我々のような中小企業が中国市場をあてにしていきなり中国本土に進出しても、かならず不良品がでる。また情報漏れにより類似品も出てくるので管理に時間が費やされ、失敗する確率が高い」という。さらに、「その点、台湾に技術移転をして台湾人技術者を育てていけば、中国市場が我々の製品を求めるときにいつでも進出できる」のだという。
たしかに、言葉の壁も少なく親日的な台湾では、日系企業の総経理が日本人であっても労務問題を含めてさほど問題は発生しないだろう。台湾に拠点をつくり、台湾人技術者と経営幹部を十分に教育したうえで、中国本土に進出していけば、いま求められている「経営の現地化」や「技術移転」の問題は大部分が解決されていくのではないだろうか。中国本社進出においては、「急がば回れ」も経営戦略のひとつだ。
【杉本 尚丈】
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