こうして株式会社トリアスは証券化手法を活用して、開業以来の借入金を一掃した。
損益計算書も、テナント各店の売上高をそのままトリアスの売上高とし、所定の部率で原価を計上し、その差額が賃料収入に相当する、という売上仕入契約で年間100億円以上の売上が計上されていたのが、ショッピングセンターの運営手数料で年間売上高2億円と、ごく身軽な会社になった。有利子負債の支払が年額で2億円以上あったが、これも借入金とともに消えた。
地権者から見たら、トリアスの証券化はどのように映るだろうか。
結論をいえば、地権者にとっては借地契約の借り手が株式会社トリアスから、ファンドが設立したペーパーカンパニーに変わるだけである。地代などの条件もそのまま継承される。ただ、地代を振り込んでくる相手が、これまでの株式会社トリアスから、ペーパーカンパニーの口座のある信託銀行に代わる、ということである。
しかし、それだけとはいっても、素朴な農家であった地権者たちには、久山町に投資ファンドが乗り込んでくるばかりか、自分たちの契約相手になる、ということは大きな驚きだった。そこで、本藤も、株式会社トリアスから頼まれ、自分でも不動産証券化の仕組を勉強したうえで、地権者の同意をとって回った。
これにより、もともと開発業務を本藤ほかに依存し、地権者との強力なパイプを築いていなかったトリアスは、ますますその存在感を薄めてしまった。
そして、株式会社トリアスとショッピングセンターのトリアスの関係も、一心同体(所有と運営が同一企業)であったのが、毎年更新の業務委託契約という細い糸でつながるのみとなった。
また、トリアスは、証券化によって銀行などの借入金を一掃するのと同時に、依然として大株主でトリアスへの貸付金も残っていたヤマックスに対して、債権の一部放棄を要請した。
ヤマックスはこれに応じた。貸付金の返済を受け、放棄した一部は貸倒計上することで、ヤマックスからトリアスへの融資残高はゼロとなり、債務保証もなくなった。
これにより、ヤマックスは、トリアスに対する財務的支配性がなくなったため、トリアスを関連会社(持分法適用対象)から外すことができた。株式としては、依然17.7%を保有していたが、これは譲渡できるような第三者もなく塩漬けといっていいだろう。
これまでにヤマックスがトリアスに対し、どれだけの金額を投入してきたか定かではない。が、このままの株式会社トリアスでは経営改善はあり得ないと考え、投資の回収を諦め、自社の財務諸表への影響を減らすという、冷徹な判断をしたのだろう。
【石川 健一】
<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)
東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。
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