<ラサールの改革>
ラサールがトリアスの買収を発表したのは2008年8月28日だった。
ラサールは、90年代後半から我が国に進出したローンスターなどとは異なり、国内では後発組といっていいファンドだが、不動産分野の投資顧問会社としては世界有数である。国内では商業施設への投資に主に取り組み、イオンのショッピングセンターなども運用している。
トリアスの取得は、一見するとリーマンショック直前で高値づかみをしているような印象を受けるのだが、会社側はこの点について、「非常に投資対象を厳しく選別してきた」と、説明している。
トリアスを取得した理由として、ラサールのリテールチーム責任者の小野は、スケールの優位性、ユニークな施設構成による他のショッピングセンターとの差別化が浸透していること、そして地域コミュニティに対する戦略の結果として安定した集客と業績があることを挙げている。
そして、取得するとともに、新たなバリューアップの戦略を推進し始めた。
まず、ラサールは単に不動産を運用する投資家ではなかった。
流通の専門家を内部に抱え、ショッピングセンターの運営面についても積極的に関与することで、投資先の価値を上げようとしていた。トリアスについても例外ではなく、これまでの株式会社トリアスの管理下で問題があった点については次々と改善を指導していった。
それだけではない。施設のリニューアルにも力を入れた。自社のネットワークを活用してテナントリーシングも行なった。
これらの成果として、09年10月には11店舗からなる新ゾーンをオープンした。新たに集客の目玉となるテナントとして、アメリカのカジュアル衣料の「GAP」の新型店舗や、安価なイタリアンレストランのチェーンとして人気のある「サイゼリヤ」などをオープンした。とくに「サイゼリヤ」は、九州1号店であり、福岡の若者の話題をさらった。
これらの努力の結果、トリアスの業績は初めて回復に転じた。08年以降の商業施設全体の売上高および来場者数はともに大きく上がり、10年12月期では売上高254億9,600万円(前年比17億1,800万円増)、来場者数1,057万4,000人(同比42万8,000人増)であった。トリアスのショッピングセンターとしての価値も高まろうとしている。
このように、ファンドであるラサールが、ショッピングセンターを所有して、その家賃を投資家に分配するだけではなく、ショッピングセンターのリーシング活動などの運営にも力を発揮した。このことによって、PM(プロパティマネジャー)である株式会社トリアスは、逆にその能力を疑問視されるに至った。
【石川 健一】
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<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)
東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。
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