<野田首相「南スーダン派遣」に意欲>
「国連平和維持活動等に対する協力に関する法律(PKO協力法案)」が1992年(平成4年)に成立して以降、自衛隊は国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)への陸自施設科部隊の派遣を皮切りに、13件の国際平和協力業務に、部隊または個人派遣の形で、延べ約7,000人を参加させ、着実に実績と経験を積み上げてきた。
野田佳彦首相は9月22日、国連総会での演説と潘基文国連事務総長との会談のなかで、「日本の得意分野で是非とも貢献したい」と表明し、今年(2011年)7月にスーダンから分離独立した南スーダンの国連平和維持活動(PKO)への陸自施設科部隊派遣の意欲を示した。
施設科部隊の派遣は、潘事務総長が今年8月に来日した際にも要請があったが、東日本大震災への対応や、ハイチに今も施設科部隊約300人を派遣中であることなどを理由に、北沢俊美防衛相(当時)は司令部要員の派遣を表明するに留めていた。
ところが、野田政権になって「南スーダンへの姿勢が前のめりになった」(陸自幹部)との声が聞こえてくる。
日本が国際社会の一員として、南スーダンの国づくりに積極的に関与し、貢献することに異論をはさむ余地はない。ただ、野田政権が外交での実績作りを急ぐあまり、見切り発車的に自衛隊の派遣を決定するかの動きは、拙速すぎると言わざるを得ない。
<犠牲者ゼロは奇跡>
民主党の前原誠司政調会長は9月7日、野田首相の訪米直前に、ワシントンにおいて「3・11後の日米同盟」というシンポジウムで講演した。そのなかでPKO参加について「自衛隊が、ともに活動する他国の部隊を急迫不正の侵害から保護できるようにすることが必要だ」と述べ、PKO参加5原則(<1>紛争当事者間の停戦合意、<2>受け入れ国を含む紛争当事者の同意、<3>中立を厳守、<4>以上の原則のいずれかが満たされなくなった場合の撤収、<5>要員の生命などの防護のため必要最小限の武器使用)を見直すべきだと主張した。政権与党の政策責任者としては当然の発言だ。
「PKOの在り方に関する懇談会も今年7月に、武器使用基準の緩和を検討するように提言している。
PKO協力法案が施行されて19年間、1人も犠牲者を出さなかったことは奇跡とも言えるが、今後も犠牲者が出ないという保証はどこにもない。
野田首相は9月27日の衆議院予算委員会で、公明党の石井啓一氏の質問に対して、「いまの法の枠内の武器使用(基準)で派遣が可能かどうか考えている」と、答弁するなど、武器使用基準の見直しに否定的な態度を示した。
南スーダン国内ではいまだに多くの武装勢力が活動しており、自衛隊派遣の根拠となるPKO参加5原則のなかの武器使用基準の見直しがなければ、自衛隊員を危険に晒す可能性があることを自衛隊の最高責任者である野田首相は認識するべきである。
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