著書『日本の独立』(飛鳥新社)やブログ「植草一秀の『知られざる真実』」などで、利権複合体(既得権益勢力、米国、官僚、大資本のトライアングル)の真相・真実と、主権者たる国民がこれらの諸権力と闘う必要性を訴え続けてきた植草一秀氏。転換期を迎えた日本国家について、どのように感じているのか話を聞いた。
今、金融市場の混乱や経済の不透明化が増大するなかで、表面に出てくるのは財政問題です。ヨーロッパもアメリカも、債務上限の引き上げに焦点が当てられるなど緊縮財政がとられつつあり、景気は弱含みで推移しています。そうなると、失業問題などはなかなか改善しませんし、拡大した格差問題も放置されたままです。
いわゆる平時の経済政策として財政赤字拡大に対処して処方箋を示すことは当然必要ですが、今考えなければならないことは、現状を平時と捉えて取り扱って良いのかどうか。ここをしっかりチェックしなければ、非常に危険です。
現在の世界経済混迷は、08年から09年にかけて深刻化したサブプライム危機の延長上にあると私は見ています。アメリカは一時的に超大型の財政出動や過去に例のない超金融緩和を実施し、さらに金融機関に対する資本増強策も、いわゆる住宅関連政府公社やシティバンクなどの銀行に資本増強策まで実行して、とりあえず危機を回避しました。この政策により、09年3月から10年半ばにかけて米国経済は小浮上しました。
けれどもこれらの劇薬は当然、副作用をともないます。それが財政赤字ということですが、根本の問題が消えたわけではありません。私も、サブプライム危機の本質を当初は十分に洞察し得なかったことを反省しますが、サブプライム危機は本質的に日本の不良債権問題とは違っていました。
日本の不良債権問題は1980年代後半に日本がバブルを生成したことに端を発して生じた問題です。日本の株価は86年の初めに1万3,000円だったものが89年末に3万9,000円、不動産価格もこの期間に約1年遅れて3倍から4倍になったのですが、それが1990年代に入って5分の1とか10分の1に暴落しました。
日本の銀行およびその他金融機関はバブル生成の時代、1985年から90年にかけてだいたい200兆円融資を増やしました。200兆円貸したお金で購入した資産価格が平均で半分になると、200兆円のうち100兆円が貸し倒れになります。この100兆円の損失の処理をし終えるのに10年ないし20年の時間を要したわけです。
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