著書『日本の独立』(飛鳥新社)やブログ「植草一秀の『知られざる真実』」などで、利権複合体(既得権益勢力、米国、官僚、大資本のトライアングル)の真相・真実と、主権者たる国民がこれらの諸権力と闘う必要性を訴え続けてきた植草一秀氏。転換期を迎えた日本国家について、どのように感じているのか話を聞いた。
アメリカにも似たような先例があります。1929年に始まる世界大恐慌のなかで、ルーズベルト大統領はニューディール政策などで経済を浮上させましたが、37年に政策路線を財政健全化に転換して緊縮策をとりました。もともと、ルーズベルトは緊縮財政主義者だったのです。ただ、ルーズベルトの前はフーバー大統領で、フーバーが緊縮策を取ったとの経緯もあり、ルーズベルト政権はニューディール政策を打って経済が浮上したわけです。しかし、37年になって経済が浮上したので、ルーズベルトは本来の方針である均衡財政主義を前面に提示したわけです。その結果、経済は崩れ、第2次世界大戦につながっていってしまったのです。
こうした歴史の教訓を踏まえて、現在の問題に対処することが極めて重要です。日本の事例を見ても、先を急ぎすぎる財政再建策への転換が96~98年、01~03年の日本経済崩壊を引き起こしていますので、今この段階で本当に緊縮財政がよいのかどうか、十分な検討が必要なのです。
オバマ大統領が大統領に就任した09年のはじめ、すぐ大規模な政策を打ちましたが、そのときまでは、アメリカでも財政政策を否定する論調が強く、日本の学者などは「ケインズ政策は過去の遺物」などと完全否定していましたがアメリカは突然、大がかりなケインズ政策を発動した。すると、日本の学者も急にケインズ政策が重要だなどと言い始めたのです。
アメリカ政府の発想はこの意味では柔軟であると言えます。経済を上手に運営しなければ、即、大統領選の結果にはね返りますから、柔軟な思考で対応するしかないということなのでしょう。09年から2年たって事態は少し好転しましたが、ここで米国の財政政策が超緊縮策に大転換すれば、株価が急落して経済も急速に悪化するでしょう。このことはアメリカだけの問題ではなく、財政危機が深刻なヨーロッパにも波及し、ユーロ急落、欧州株価急落などの反応が生まれてしまうでしょう。
世界経済の下方リスクが極めて大きいときに超緊縮財政政策を発動することは、世界経済を崩壊させ、新しい金融不安を爆発させてしまうきっかけを作ることを意味するかも知れません。IMF、アメリカ議会、さらにはS&Pなどの格付機関が足並みをそろえて、超緊縮財政を主張するのは、もしかすると、これらの裏側に蠢く巨大金資本勢力が、世界的な金融市場の混乱を意図的に作り出そうとしているためではないかなどという、一種の陰謀論さえ想起せざるを得ない状況を生み出しています。
もしこのまま、ヨーロッパ、アメリカ、日本の超緊縮財政が修正されずに実行に移されてゆくとすると、過去の事例から推察できるように、株価続落、経済悪化、金融不安の、いわゆる「魔の悪循環」が始動し、その先、新しい戦争に繋がってゆくなどという、良からぬストーリーが現実味を帯びて来るかも知れません。それ以前の問題として、経済が混乱し、金融不安が広がることも十分考えられます。本来望ましいストーリーではありませんが、ひょっとすると、このような経済金融の大混乱、あるいは新しい戦争を待望する、いわゆる死の商人、陰謀勢力がどこかに潜んでいるのかも知れません。あらゆる可能性を否定せずに、現実社会を洞察してゆかねばならないと思います。
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