以前、ある建築資材会社の経営者から「従業員(役員兼任)が勝手に会社の名前で100万円を借り、金を貸した相手先とトラブルになった」との相談を受けた。相手先との関係を考えたうえで会社の不始末として金を用立てて返金し、従業員はクビにしたとのことだが、「法的には会社が責任を負うべきなのか?」という質問であった。
これは、従業員の不法行為についてどの範囲で使用者責任(民法715条)を負うのか、という問題である。よくある話であることから過去の裁判例も充実しており、有名なところでは私用で社有車(社名入り)を乗り回した従業員が交通事故を起こした場合に、会社の責任が認められたケースもある。
最近の最高裁判例のなかには以下のようなものもある。貸金業者Yの従業員Aから「Yの事業資金の原資に充てる」と、騙されたXが、Aに合計3,100万円を交付して被った損害につき、Yは賠償責任を負うかが争われた事件。最高裁は「貸金の原資の調達が使用者であるYの事業範囲に属するというだけでなく、これが客観的、外形的にみて、被用者であるAが担当する職務の範囲に属するものでなければならない」として、会社側Yの使用者責任を認めなかった(最裁平成22年3月30日)。
一般的には、従業員の行為が(1)使用者の事業の範囲にしており、なおかつ(2)従業員の職務の範囲に属していれば、会社側の使用者責任が認められることになる。なお、その際には形式的、外形的な判断が用いられるため、会社側の責任が認められやすくなる傾向にある。
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