「不良資産」という言葉を聞いたことがあるだろうか。とくにB/S(貸借対照表)上の「流動資産」において、「流動」とは「1年以内」という意味であるから、回収・換金までに1年超を要する流動資産は、基本的には好ましくない(正常営業循環基準による正常債権は除く)。ここでは「好ましくない」という表現を用いたが、「不良資産」とは、「回収不能」な資産のことを指す。
とくに、受取手形や売掛金において、相手方が破綻しているにもかかわらず、流動資産に計上し続けている債権がないだろうか。流動資産における「短期貸付金」科目において、代表者や親族、関連会社などに貸付を行ない、返済を受けていない貸出金がないだろうか。架空計上している在庫は存在しないだろうか。有価証券やゴルフ会員権に、簿価と同じ価値は存在するのであろうか。
銀行員は、これらを「不良資産」と呼び、一般的には「回収可能性の低い資産」のことを指す。とくに「勘定科目明細」において、受取手形や売掛金は、「その他」や「諸口」に、前年対比で大きな金額が増加されていたのでは、その詳細を突っ込まれた際に、答えに窮することとなる。3期分の勘定科目明細を並べた際に、同じ企業に対する同じ金額の債権を有している場合も、3年間回収できていないものと見做されるケースもある。
架空在庫の存在は、棚卸資産回転期間(在庫回転期間)により算出されることが一般的である。同業他社と比較し、または前年決算と比較しても長期化している場合、架空在庫の存在が疑われることが、一般的である。
これら、架空の資産や回収見込みの低い、または回収見込みのない資産は、「不良資産」と呼ばれ、財務分析上、「資産」として見做されない。不良資産の金額を見積もり、それらを資産勘定から控除した際に、「資産の部合計」と、「負債・純資産の部合計」の貸借が、不一致となる。「バランスシート」の「バランス」が不一致となる状態を避けるため、「資産の部」から控除した不良資産は、その同額を、「純資産の部」の「繰越利益剰余金」から控除することが、一般的である。
そうすると、実は表面上のB/Sは繰越欠損もなく、債務超過でもなく、また自己資本比率も厚い(良好な)状態であっても、当該企業の知り得ないところで、財務分析上、実質的な繰越欠損や債務超過となっているケースが、多見される。
金融機関はこのようにして、提出された決算書類に基づき、実態としてのB/Sを作成し、実態ベースでのB/S及びP/Lに基づき財務分析を行なった結果、格付や債務者区分を付与する。表面上は資産超過の状態であっても、実態B/Sが債務超過であれば、債務者区分は「正常先」から、一気に「破綻懸念先」まで下位遷移することとなる。
経営者や経理・財務セクションの担当者が、自社の財務内容は「良好」と判断・分析していても、追加融資が受けられない場合において、不良資産の内包(とくに流動資産における代表者などへの短期貸付金)や、債務償還年数の長期化を疑うことを推奨する。
回収見込みの低い、または回収見込みの無い資産を「不良資産」として認定することを、「不良資産認定」という。この「不良資産認定」を避け、実態B/Sにおいても資本勘定に毀損を生じさせず、良好な財務分析結果を導き出すことは、すなわち良好な格付値、債務者区分の付与に直結し、追加融資をも可能とする。
これら一連の好循環サイクルを実現するためには、企業としてどのような自助努力が必要なのか。その具体的方策を、次回の執筆により明らかにする。
※記事へのご意見はこちら