<転職人材の"青田刈り">
最近読んだ新聞記事で驚いたことがあります。その記事には、一部の人材紹介会社や人材派遣会社が学生に関して、「朝活」(早朝の通学前、出社前の時間に実施される勉強会)で就活セミナーを始めたという記事が載っていました。
その内容はどこも基本は同じで、あいさつの仕方から入り、"複式呼吸の仕方"、"笑顔・愛嬌のある顔の作り方"、"発声の仕方"等からなり、最後はがんばろうとか、和気あいあいで終わるというものです。途中で、成功談や失敗談を挟んだり、怪しげな就活コーチの話があるのはお決まりです。ご丁寧に「とても役に立った」という受講生の感想まで載っていました。
就職が迫ってくるまで、何の努力もせず直前にわずか1時間程度のセミナーを、何回繰り返しても結果的に何の効果もないことは"学生"ではない周りの大人ならすぐわかるでしょう。大人は"学生"をだましてはいけません。
「にわか勉強・研修で行ける企業には絶対行くな!」というアドバイスは、一流コンサルタントの常識です。それは、長い人生を考えた場合、本人のキャリア形成に何の役にも立たないばかりか、悪影響を与えるからです。
なぜなら、すぐに化けの皮は剥がれ、自分の居心地が悪くなることが明らかだからです。これは悪いほうに作用した場合ですが、良いほうに作用すると、自分の能力が会社のキャパシティをすぐ越えてしまいます。
この種のセミナーを受け、大手企業・有名企業に合格できると、"学生"は勘違いしますが、それは絶対にこのセミナーの"おかげ"ではありません。残念ながら、新卒の採用基準は、極端に申し上げますと、最初から偏差値の高い大学順になっているだけのことだからです。
実はこの記事はもっと大きな問題を含んでいます。賢明な読者はお気づきと思いますが、人材紹介会社や人材派遣会社がこの事業をやってはいけないのです。いわば、転職人材の"青田刈り"のような恐ろしいことだからです。
入社した企業で悪いほうに作用すれば当然、良いほうに作用しても転職人材の予備軍となってしまいます。そうすると、この「朝活」の参加者名簿は主催する企業にとって大変な宝となってしまうのです。
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<プロフィール>
富士山 太郎(ふじやま たろう)
ヘッドハンター。4,000名を超えるビジネスパーソンの面談経験を持つ。財界、経営団体の会合に300回を超えて参加。各業界に幅広い人脈を持つ。
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