<映画「モダンタイムズ」の再現>
インドの独立の父・政治家ガンジーの7つの社会的大罪のなかに「道徳なき商業」(Commerce without Morality)という言葉があります。人材に関する業界は、"人の生きざま"に関係しているので、この点を一番肝に銘じないといけないと思います。ところが、大手は例外なく、中堅の人材紹介会社も人材派遣会社も"ビジネスオンリー"で、向かっているベクトルの方向がまったく逆なのが現状です。
人材業界は発足当時、紳士協定的な暗黙の了解事項で、明確な棲み分けがされていました。つまり、守備範囲が決まっていました。就職(新卒)と転職(中途採用)と2つに分かれ、転職はさらに人材紹介、人材派遣(新卒の一部も含む)という2つに分かれていました。これはその社会的使命がそれぞれまったく違うからです。
就職は学校を卒業して社会人になる以上、すべての人材が100%通るべき門です。
しかし、転職は現状に何か"大きな"問題が起こった場合に限られます。転職のなかで人材紹介の基本は正社員であり人材派遣は正社員ではないというとても大きな違いがあります。
さて、棲み分けが明確にできていた人材業界の今はどうでしょうか。
数社の大手企業グループはもちろん、中堅も含めて就職から転職(人材紹介・人材派遣)まですべて、まるで人材をベルトコンベアーで運ぶように扱っています。つまり、大学などを出て社会人になると、このベルトコンベアーに乗せられてしまいます。マスコミの誤った誘導もあり、何となく就職の次は転職のような社会のムードさえあります。まるで、チャップリンの映画「モダンタイムズ」を見ているようです。
2000年代前半に、いわゆる失われた10年からくる平成不況が起こりました。この時に、売り上げ確保のために、人材紹介会社は派遣の免許をとり、人材派遣会社は紹介の免許を取り、相互乗り入れが実現したことが原因です。それほど、両者の免許取得は簡単なのです。許可権は厚労省にあります。
この垣根を越えなかった数少ない良心的な老舗の人材紹介会社、人材派遣会社は経営に窮し、残念ながら、その多くは現在の不況前に壊滅しました。
しかし、まじめに考えるとこれはとんでもないことだし、恐ろしいことなのです。就職から転職は絶対に同じ直線上にありません。ましてや紹介と派遣は全く違いますので・・・。
<プロフィール>
富士山太郎 (ふじやま たろう)
ヘッドハンター。4,000名を超えるビジネスパーソンの面談経験を持つ財界、経営団体の会合に300回を超えて参加。各業界に幅広い人脈を持つ。
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