去る2011年10月4日から8日にかけて幕張メッセ(千葉県)で、アジア最大級の規模を誇る映像・情報・通信の国際展示会「CEATEC JAPAN 2011」が開催された。東芝やソニー、シャープなどの大手電機メーカーは、次世代テレビの呼び声高い「4K」テレビを相次いで発表した。
「4K(ヨンケイ、もしくはフォーケイ)」とは、解像度のことで、水平画素数4,000×垂直画素数2,000前後の解像度を持つ動画フォーマットを、こう呼ぶ。解像度は、フルハイビジョン(HD)の4倍。2012年中の投入が予想され、デジタル放送に移行してから停滞気味になった市場の"救世主"として期待されている。
戦後の高度経済成長のなか、白黒テレビは、洗濯機や冷蔵庫とともに『三種の神器』と宣伝され、急速に普及した。その後、1964年の東京オリンピックの頃には、カラーテレビが、クーラーや車とともに『3C』と呼ばれ、いざなぎ景気の後押しもあり、瞬く間に家庭に広がった。その後も、「BS放送」や「ワイド画面」、「薄型液晶」「地デジ化」「3D」などのキーワードとともに、市場に買い替えを促してきた。今回の「4K」も、その流れを汲んでいる。
「iPod」から、常に進化の過程を歩み、スクリーンのみならず、その用途さえ大きく変え、トップシェアを獲得した今もなお、貪欲にイノベーションを起こし続ける「iPhone」。一方で、画素数やバッテリーなど、ある意味で単調な進化をし続けた結果、スマートフォンにそのシェアを奪われつつあるデジタルカメラ。双方がこれまで歩んできた道をこうして振り返ると、テレビは「iPhone型」ではなく「デジカメ型」の道を歩んでいると言わざるを得ない。
10月31日、パナソニックは2012年3月期の連結最終損益(米国会計基準)が前期の740億円の黒字から転じて、4,200億円の赤字になると発表した。5000億円強にのぼるリストラ費用や、テレビ、半導体事業の規模縮小が主な原因とされる。また、ソニーは韓国サムスン電子との液晶パネル合弁の解消に向けて交渉に入ったことを明かした。この合弁会社(S-LCD)は、2004年当時にテレビで世界最大手だったソニーと、液晶パネル最大手のサムスンが提携することで、双方に大きなメリットがあったが、テレビ事業で赤字が続くソニーにとっては、足かせになりつつある。「4K」は、このような状態の国内メーカーにとって、本当に"救世主"となるのだろうか?
もちろん、4Kテレビが市場に出回れば、購買意欲を促す潤滑油にはなり得る。ただ、高度経済成長のころから続く、この伝統的な販売戦略が、今後も通用し続けるとは思えない。日本のテレビは今後、デジタルカメラのような手詰まりに陥るのか、それとも、活路を見出すことができるのか。
「iPhone」は、常にイノベーションを繰り返し、発売日に世界中で行列ができるほどに成長した。イノベーションとは技術革新であるだけでなく、新しい活用法、発想でもある。そして、光り輝く未来都市でチューブのなかを走る車のような、突拍子もないものではない。それは、未来の人にとっての常識でなくてはならない。それを想像できるか否か、実現できるか否かにかかっている。「iPhone」が発売される前、「iPhone」が欲しい人などこの世に一人もいなかった。なぜなら、「iPhone」がこの世になかったからだ。まったく新しい発想こそが、時代をリードする。
では、テレビが目指すべき未来はどこにあるのか―。
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