「人材紹介業」を、そして「人材と企業」を誤った方向に導いてしまった大きな要因のひとつにインターネットの普及があります。インターネットの普及がなければ、"黒子"が表舞台にでることはなかったですし、雨後のタケノコのように人材紹介会社が1万数千社も生まれることはなかったからです。
人材紹介業は、従来「超アナログ」な業種でした。それは、「人の生きざま」の対応に相応しく、資料(履歴書とか職務経歴書)はとても丁重に扱われ、人材紹介会社と人材が希望する、多くて10社程度の選び抜かれた企業にしか公開されませんでした。
もともと「黒子」に徹していたので、人材コンサルタントも行動を慎重にし、人材と会う際も人気のないホテルとか、とにかく人目につかないことが原則でした。そして、人材紹介会社の勲章は、何よりも「転職に成功した人材」からの紹介でした。広告や宣伝の必要とか、システムも存在しませんでした。従って露出するデータはとても少なく、他業種からの参入とか企業規模拡大などとは、別次元の話でした。いま思いますと、その時のほうが一定の「社会的使命」に準じて活動をしていたように思います。
「お前はどのくらい昔の、どこの国の話をしているのか」と、呆れないでください。わずか10数年前の日本の話です。日本で、商用のインターネットが普及し始めたのは、定額のブロードバンド接続サービスが低価格で提供された2000年になってからのことです。この波は当然、人材紹介業にもやってきました。もちろん、すべての業界共通ですから驚くには当たりません。
しかし、その衝撃の大きさは、他業界の比ではなかったのです。何といっても、それまでは黒子でやって来ていたわけですから・・・。インターネットが得意とする「情報公開」はこれまでとは真逆の概念だったからです。
当初は、日本人の「メンタリティ」から言って、まさか人材紹介業界は大きな影響は受けないだろうと老舗人材紹介会社の経営者は思っていました。現在、その予測は見事に大外れであったことは誰の目にも明らかです。しかし、ビジネスとはいえ、「人の生きざま」を情報公開していいのだろうか、「ビジネスオンリー」で過大に儲けていいのだろうかという葛藤もあった気がします。
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<プロフィール>
富士山 太郎 (ふじやま たろう)
人材紹介、ヘッドハンティングのプロ。4,000名を超えるビジネスパーソンの面談経験を持つ。紹介する側(企業)と紹介される側(人材)双方の事情に詳しく、各業界に幅広い人脈を持つ。
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