経営者にとって、決算期における一定レベルの「節税対策」は、重要な課題である。顧問税理士や会計士とともに、決算期前に協議を行ない、調整を行なうことが、一般的なプロセスである。一方で、与信取引を金融機関と有しているならば、その決算書は金融機関宛、開示を行なう義務が、銀行取引約定書上、存在する。利害関係者が自社内のみならず、与信を行なっている金融機関宛の開示を行なう必要がある以上、金融機関が「どのような決算書が有難いのか」を理解することは、重要である。
結論から述べると、金融機関にとっての与信先の「利益」は、「大きければ大きいほど、ありがたい」ものである。具体的な水準については、「P/L(損益計算書)上の償却前利益(当期純利益+減価償却費)が、年間の長期借入金の約定返済額を上回っていること」が必須である。
通常、企業は、複数の金融機関から借入を行なっている。長期借入金を3本有し、3本の長期借入金の合計返済額が500千円/月であったとする。これは、年間を通じて「500千円/月×12ヵ月=6,000千円」の借入金の返済を行なっていることとなる。借入金の返済は、当然にP/L上の「製造・売上原価」や「一般管理費」などには含まない。借入金の返済を行なうべき「原資」は、「利益」によって賄われるべきなのである。これを「利益償還」という。
決算書において多見されるものとして、特別損失において固定資産除却損や繰延資産償却などの、損失を計上しているケースがある。当然にこれらは適正な会計処理を前提としているが、翌期に設備投資などの融資を金融機関から受ける予定としているならば、除却などのタイミングについて、これは適切ではない。
加えて、特別損失における損失の計上は、経常利益以下の問題であるため、経常利益以上は黒字着地、税引前当期純利益以下が赤字着地となっているケースが散見される。これは、本シリーズ「2-1:銀行格付の仕組みと必要性」において言及した通り、営業利益や経常利益が正や負の値であったとしても、格付を算出する銀行システム上、当期純利益が正の値か負の値かにより、正常先や要注意先と判断されることもある。
より大きな問題は、実際にキャッシュアウトをともなった、全額損金タイプの数百万円程度の保険への加入などである。支払保険料は前期比で一気に上昇し、実際は換金性の強い資産であるにもかかわらず、損金計上されたことにより、B/Sよりオフバランス化されている。金融機関の担当者も、支払保険料の増加に着目することなく、また経営者も決算書提出の際に、レポートなどにおいてその点を訴求せず、保険証券の写しなども添付しなければ、単純に「収益性は脆弱であり、利益レベルは低い」と判断されることとなる。
営業利益や経常利益段階で黒字であるから、当期純利益を赤字にしてもよい(または利益レベルを最小化してもよい)という判断は、対金融機関からの財務評価においては、成立し得ない。金融機関の格付システム上の問題に加え、純資産勘定の毀損にもつながるからである。また、当期の「納税額の最小化」が、当該企業の長期的な利益享受とイコールとなるとは限らない点にも、十分に留意すべきである。
当該期の「納税額の最小化」は、あくまで目先の「部分最適」である。中長期的な事業計画を描く企業にとって、そこに設備投資や運転資金などの金融機関からの「融資」を必要とするならば、当該企業における「全体最適」は、その事業計画の実現に向けた、金融機関からの「資金調達」にある。数年先までの事業計画を、取引金融機関と共有し、適切なタイミングで資金調達を円滑に行なえるよう、企業・金融機関双方が、目指すべきB/SとP/Lを創り上げていくことこそ、理想とする「リレーションシップバンキング」の実践である。
自社における必要な利益計上額はどの程度なのか、また中長期的な事業計画における、目指すべきB/SとP/Lの予算数値について、取引金融機関とのコンセンサスを統一していただきたい。その予算数値を達成させるプロセスこそが日々の経営活動であり、足許の利益享受に逃避することは、必ずしも金融機関が考える思惑と、利害は一致しないのである。
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