最近、某企業のベテラン人事担当者から聞いた話で、面接をしても候補者の「志望動機が全くつかめない」というものがあります。新卒に限らないということでした。筆者は彼の話を最初は冗談かと思いました。彼の会社が優秀な社員が多くいることで有名な一流企業だったからです。
たいした動機がなくても、有名企業だからとりあえずエントリーする。経歴書が用意できれば、この作業は、数秒で済みます。受かるはずもない企業へのエントリー数を増やし、どこか受かるかも知れないという甘い幻想を抱く。これは、完全にゲーム感覚です。その結果、十数しか募集しない有名企業にも、数万人の応募者が出てきます。
これは、新卒の就活サイトにある「一斉送信」(自分の書いた経歴書を希望企業に一度に送ることができる)というボタンが原因です。なんとなかには300社に送る強者もいると聞きます。
「人材紹介会社のポータルサイト」にも、人材が複数の人材紹介会社へのアクセスを希望した場合、「一斉送信」というボタンがあります。1人で50社とか、とても多くの人材紹介会社に自分の経歴書を「一斉送信」できるのです。
人材が真摯に相談できるとすれば、数社のコンサルタントが限度です。このシステムができる前には、自分で充分に調査し、慎重に人材紹介会社にコンタクトを取っていたはずです。
「一斉送信」ボタンは、事前調査など面倒な手続きはいっさい要りません。しかも数秒で気軽にできます。作業が数秒で済みますので、返信がなくても、全く心理的負担がないのかも知れません。
良く考えてみて下さい。自分の大事な「人生」なのですから、新卒であっても、キャリア採用であっても、ゲーム感覚はマズイでしょう。この様な状態が長く続くと、人間は次第にその環境に麻痺してしまいます。とても危険と感じています。
現在、新卒は「就活サイト」、キャリア採用は「人材紹介会社のポータルサイト」などで人材・企業・人材紹介会社らが一元管理されています。身動きがとれないのが現実です。
しかし、新卒もキャリア採用も、早くこのシステムから足を洗わないと、将来に禍根を残すことになるでしょう。
<プロフィール>
富士山 太郎(ふじやま たろう)
ヘッドハンター。4,000名を超えるビジネスパーソンの面談経験を持つ。財界、経営団体の会合に300回を超えて参加。各業界に幅広い人脈を持つ。
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