3月11日に東日本大震災が発生。その直後、東京電力は政府に、福島第1原発の電源喪失を報告した。政府は被害拡大を防止するために直接指示を下したが、そもそも操作マニュアルは、電源喪失を想定しておらず、現場は混乱。当初、政府は溶融の可能性こそ認めながらも、溶けた燃料棒が原子炉下部に落ちる状態―いわゆるメルトダウンは否定していた。しかし、事故発生から約2カ月が経過した5月12日に一転して、メルトダウンの状態にあると認めた。
また、文部科学省が開発した緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム (SPEEDI) のデータ公表が、事故直後に計測されながらも発表されず、このせいで東日本に住む多くの国民が被ばくの危険にさらされた。これについて政府は、国際原子力機関(IAEA)に提出した報告書のなかで、原発の放射線放出に関する完全なデータをリアルタイムで入手することができず、また、SPEEDIが推測に基づいて作成した予測結果を公表すれば、不必要な混乱を招く可能性があったと報告したが、国民の政府発表に対する不信感はますます深まった。
このように、事故発生当初に持っている情報を正確に開示しなかったことが、先日の「臨界」騒ぎにまで尾を引いている。政府・東電側がどれほど科学的根拠に基づいた説明を行なっても、「臨界」の言葉ひとつで世間は大きく動揺してしまう。もはや、信用している人間が少ないのだ。
また、政府発表よりもネットのデマを信用して、混乱が広がるケースも多い。とくに簡易ブログサイト「ツイッター」と、高性能端末「スマートフォン」は、2009年ごろから爆発的に普及。誰もが簡単に情報発信できるようになった反面、ネット上でデマが広まる"震源"の一翼を担ってしまった。
今回の放射性キセノン検出騒動でも、東京電力の松本純一原子力・立地本部長代理は、当初、小規模な臨界の可能性を挙げたが、翌日に撤回。キセノンが検出された過程や、それに基づく検証を理解すれば、臨界発言の撤回は納得できるものだが、デマや嘘に散々荒らされた"情報の海"のなかでは、事実は漂流しやすく、インパクトのある危険なキーワードだけが一人歩きし易い。
「ツイッター」のように誰でも匿名で情報発信ができるサービスに関しては、「情報ソースの確認」と「信頼できる発信者の選定」が重要になる。匿名の誰かが発信した新情報は、必ず情報ソースを確認する。そして、ソースが個人ブログなどではなく、信頼できる筋であるかも見逃してはいけない。また、情報の発信者が、自分が信用できると判断した有識者本人や、政府などの公式アカウントならば問題ないだろう。
反対に、自分が情報を発信する場合も注意したい点がある。もし、間違った情報を発信してしまった場合は、それを削除してはいけない。削除せずに、訂正した旨を付け足した内容で再発信する。そうしないと、誤報が訂正されないまま、情報ソースである自分の発信が消えてしまう。
ネットなど、"情報の海"から真実だけを収集する能力。これも、災害を生き抜くために、我々が身につけなければならないスキルだ。
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